Q.「名目」と「実質」は何が違うのか
A.名目は金額そのもの、実質は物価の影響を取り除いた中身です。金額が増えても、物価が同じだけ上がれば、買える量は変わりません。
⭐ 重要度:A / 出題頻度:A
📘 テキスト対応:第11章・第17章・第19章(名目と実質)
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まず、どこでつまずくのか
「給料が上がったのに、生活は少しも楽になっていない」。そんな話を聞いたことがあるかもしれません。金額は確かに増えています。それなのに、暮らしぶりは変わりません。ここに引っかかりを感じる人は多いようです。
つまずきの正体は、ひとつの数字を二通りに見られることを知らない点にあります。お金の話には、金額そのものを見る見方と、その金額で実際にどれだけ買えるかを見る見方があります。この二つは、しばしば食い違います。
この二つの見方に名前を付けたものが、「名目」と「実質」です。まだ用語は覚えなくてかまいません。まずは、金額の数字と、買える量の数字は別ものだ、という感覚をつかむことから始めます。
身近な例で考える
ある人の月給が20万円だったとします。この人がよく買う商品を、おにぎり1個だけで考えてみます。おにぎりは1個100円でした。すると、月給でおにぎりは2000個ぶん買える計算になります。
次の年、月給が22万円に上がりました。数字だけを見れば、うれしい話です。ところが同じ年に、おにぎりも1個110円に値上がりしていました。さて、22万円でおにぎりは何個買えるでしょうか。
計算すると、やはり2000個です。金額は20万円から22万円へと、1割増えました。けれども、おにぎりの値段も1割上がりました。そのため、買える個数はまったく変わっていません。
ここで大切なのは、次のことです。金額が増えても、買える量が増えるとは限りません。増えた金額のうち、値上がりで消えてしまう分があるからです。この「消えてしまう分」を見落とすことが、最初のつまずきでした。
「名目」と「実質」ということば
ここで、二つの見方に名前を付けます。金額そのものを指すことばが名目(nominal)です。さきほどの例なら、20万円や22万円という数字が、名目の給料にあたります。値札に書かれた数字そのもの、と考えるとイメージしやすいはずです。
もう一方、物価の影響を取り除いて、実際に買える量で測った中身を指すことばが実質(real)です。さきほどの例なら、「おにぎり2000個ぶん」という量が、実質の給料にあたります。
名目は「いくらか」を表します。実質は「どれだけ手に入るか」を表します。名目の20万円と22万円は違う数字でした。それでも実質は、どちらも2000個ぶんで同じでした。名目が増えても実質が変わらない、という状態が、ここで起きています。
名前が二つあるのは、意地悪をするためではありません。金額と中身がずれることがあるからこそ、それぞれを別のことばで呼び分ける必要があるのです。
物価という共通のものさし
名目と実質のあいだをつなぐものが、物価(price level)です。物価とは、世の中の品物やサービスの値段を、全体としてならしたものです。一つひとつの値段ではなく、平均的な高さと考えると分かりやすいはずです。
物価が上がれば、同じ金額で買える量は減ります。財布の中身が同じでも、値上がりした分だけ、手に入るものが少なくなるからです。逆に物価が下がれば、同じ金額で買える量は増えます。
ここから、次のような関係が見えてきます。実質は、名目から物価の影響を取り除いたものだという関係です。名目の金額が増えても、物価が同じだけ上がっていれば、実質は変わりません。名目の伸びより物価の伸びが小さいときに、はじめて実質が増えます。
ふだんの生活で肌で感じるのは、実は実質のほうです。給料の金額よりも、「前より買える量が増えたか、減ったか」のほうが、暮らしの実感に近いからです。
経済学ではこう使う
経済学では、この名目と実質の区別を、さまざまな数字に当てはめます。よく登場するものを、いくつか挙げます。
- 名目賃金と実質賃金。名目賃金は給料の金額そのものです。実質賃金は、その給料で買える量を表します。給料の数字が上がっても、物価が同じだけ上がれば、実質賃金は増えません。
- 名目GDPと実質GDP。GDP(gross domestic product、国内総生産)は、一つの国で一年間に新しく生み出された価値の合計です。名目GDPは、その年の値段のまま合計した金額です。実質GDPは、物価の変化を取り除いて、生産された量そのものの変化を見た数字です。
- 名目金利と実質金利。金利は、お金を貸し借りするときの利息の割合です。名目金利は表示されている割合です。実質金利は、そこから物価の上がり具合を取り除いたものです。
どの場合も、考え方の芯は同じです。金額の数字と、その中身とを分けて見るという一点です。とくに、時期の違う数字を比べるときに、この区別が働きます。去年と今年で物価が違えば、金額をそのまま比べても、暮らしがよくなったかどうかは分からないからです。物価をそろえてはじめて、中身の比較ができます。
ここまでの整理
最後に、要点をまとめます。名目は金額そのもの、実質は物価の影響を取り除いた中身でした。二つをつなぐのが物価であり、物価が動くと、名目と実質はずれていきます。
給料が上がっても物価が同じだけ上がれば、実質は変わりません。これは損でも得でもなく、金額と中身のずれを表しているだけです。おにぎり2000個ぶんという感覚を、思い出のフックにしておくとよいはずです。
この先の学習では、賃金・GDP・金利など、いろいろな数字にこの区別が出てきます。そのたびに、「これは金額の話か、それとも中身の話か」と問い直す。その一手間が、名目と実質を確実に見分ける近道になります。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- 実質の値は、名目の値を物価指数で調整して求めます。どの物価指数を使うかで数字は少し変わります。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 名目は金額そのものを指し、実質は物価の影響を取り除いた中身を指す。
問2 給料の金額が増えれば、買える量も必ず増えている。
問3 名目より実質のほうが正しい数字であり、名目は使わないほうがよい。
問4 物価が下がれば、実質はいつでも増える。
問5 月給20万円でおにぎりが1個100円のとき、月給が22万円に上がり、おにぎりも110円に値上がりすれば、買える個数は変わらない。
○×の解説
問1 名目は金額そのものを指し、実質は物価の影響を取り除いた中身を指す。
答え:○
名目は「いくらか」、実質は「どれだけ手に入るか」を表します。この2つをつなぐものさしが物価です。
問2 給料の金額が増えれば、買える量も必ず増えている。
答え:×
金額が増えても、物価が同じだけ上がれば買える量は変わりません。金額の増加を見たら、物価がどう動いたかを必ずセットで確かめる必要があります。
問3 名目より実質のほうが正しい数字であり、名目は使わないほうがよい。
答え:×
名目と実質は、良い数字と悪い数字という関係ではありません。名目は「金額を知りたいとき」、実質は「中身を比べたいとき」に使う、目的による使い分けです。
問4 物価が下がれば、実質はいつでも増える。
答え:×
物価が下がる局面では、給料の金額そのものが下がることもあります。名目と物価は別々に動くので、両方の動きを見ないと実質の向きは決められません。
問5 月給20万円でおにぎりが1個100円のとき、月給が22万円に上がり、おにぎりも110円に値上がりすれば、買える個数は変わらない。
答え:○
どちらも2000個ぶんで同じです。金額が1割増えても、物価も1割上がっているので、実質は変わっていません。
次に読む:S1-04「短期と長期」
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