Q.経済学の「短期」と「長期」は、何で区別するのですか。
A.時間の長さではなく、「変えられるものの範囲」で区別します。企業の生産の話なら、工場のように動かせないものがある状態が短期、すべて動かせる状態が長期です。マクロ経済学では、価格や賃金がどこまで調整されたかで分けます(分野ごとの違いはS5-05でくわしく扱います)。
⭐ 重要度:S / 出題頻度:S
📘 テキスト対応:第3章・第4章・第14章 ほか(短期と長期)
📗 前提記事:なし
⏱ 読了目安:9分
まず、どこでつまずくのか
経済学の勉強を始めると、早い段階で「短期」と「長期」という言葉が出てきます。多くの人が、ここで一度立ち止まります。
つまずく理由は、はっきりしています。ふだんの生活では、短期は「数日」、長期は「数年」のように、時間の長さで考えるからです。
ところが経済学では、その感覚がそのままでは通じません。経済学の短期と長期は、時計やカレンダーの話ではないのです。
ここが最初の関門です。「長期って何年からですか」と聞きたくなりますが、実は年数では決まりません。この記事では、その正体を身近な例からゆっくり組み立てていきます。
身近な例で考える
まず、時間の長さから頭を切り替えるために、ラーメン店を思い浮かべてみます。
ある日、テレビで紹介されて、お客さんが急に増えたとします。店主はもっとたくさん作りたいと思います。
その日にできることは、限られています。アルバイトを一人多く呼ぶ、材料を追加で仕入れる、といったことです。これらは、その気になれば今日中に変えられます。
一方で、その日には変えられないものがあります。店の広さ、席の数、厨房のコンロの数です。狭い店に、いきなり席を増やすことはできません。
ここで大事なのは、時間の長さそのものではありません。「今すぐ変えられるもの」と「今すぐには変えられないもの」が、はっきり分かれているという点です。
- すぐ変えられる例:アルバイトの人数、仕入れる材料の量
- すぐには変えられない例:店の広さ、席数、厨房の設備
変えられるものと、変えられないもの
もう少し先を考えます。半年、一年と時間をかければ、どうでしょうか。
店主は、隣の空き店舗を借りて店を広げられます。コンロを増やし、席を増やすこともできます。時間をかければ、最初は変えられなかったものまで変えられます。
ここから、二つの状態が見えてきます。
一つ目は、変えられないものが残っている状態です。店の広さや設備は固定されたまま、人手や材料だけで対応します。
二つ目は、すべてを自由に変えられる状態です。店の広さも設備も、人手も材料も、思いどおりに決め直せます。
経済学の短期と長期は、この二つの状態の違いを指しています。変えられないものが残っているのが短期、すべて変えられるのが長期です。何年たったか、ではありません。
「工場は増やせない」の意味
教科書では、しばしば工場を例にして説明されます。テーマの中心もここにあります。
製品の注文が急に増えた工場を考えます。工場側は、生産を増やしたいと考えます。
短い間にできるのは、働く人を増やす、機械を長い時間動かす、材料を多く使う、といったことです。これらは比較的すぐに調整できます。
けれども、工場そのものの数や大きさは、すぐには変えられません。新しい工場を建てるには、土地を探し、建物を作り、機械を据え付ける必要があります。長い準備がかかります。
つまり、工場の建物や設備が「変えられないまま」なのが短期です。時間をかけて工場そのものを建て増しできるようになった状態が長期です。
短期では工場は増やせないが、長期では増やせる。この一文が、短期と長期の違いをよく表しています。
経済学ではこう使う
ここまでのイメージを、経済学の言葉に置き換えます。
すぐには変えられないものを、固定投入(fixed input)と呼びます。工場の建物や大きな設備が、これにあたります。
自由に増やしたり減らしたりできるものを、可変投入(variable input)と呼びます。働く人の数や材料の量が、これにあたります。
この二つの言葉を使うと、短期と長期はこう整理できます。
- 短期(short run):少なくとも一つ、変えられない固定投入が残っている状態。
- 長期(long run):すべての投入を自由に変えられる状態。固定されたものがない。
この区別は、費用の考え方につながっていきます。短期では、工場の建設費のように、生産量に関わらずかかり続ける費用が出てきます。長期では、その工場を建てるかどうか自体を選び直せます。判断できる範囲が、そもそも違うのです。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- 何を「変えられない」とみなすかは、調べたい問題ごとに設定します。「短期=◯年」のような決まった長さはありません。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 経済学の長期とは、たとえば5年以上のように、年数で決まる区切りである。
問2 短期とは、少なくとも一つ、自由に変えられない固定投入が残っている状態のことである。
問3 働く人の数や材料の量のように、自由に増やしたり減らしたりできるものを可変投入と呼ぶ。
問4 経済学の短期・長期は、日常語の「短い話」「長い話」と同じ意味である。
問5 短期は今の時点の話、長期はまだ来ていない未来の話、という時点の違いを表している。
○×の解説
問1 経済学の長期とは、たとえば5年以上のように、年数で決まる区切りである。
答え:×
年数では決まりません。ラーメン店なら数か月、大きな発電所なら十年以上ということもあり、業種によって大きく変わります。区別の基準はあくまで変えられるものの範囲です。
問2 短期とは、少なくとも一つ、自由に変えられない固定投入が残っている状態のことである。
答え:○
そのとおりです。工場の建物や大きな設備のように、すぐには変えられないものが残っているのが短期です。すべての投入を自由に変えられる状態が長期です。
問3 働く人の数や材料の量のように、自由に増やしたり減らしたりできるものを可変投入と呼ぶ。
答え:○
そのとおりです。すぐに調整できるものが可変投入、工場の建物のようにすぐには変えられないものが固定投入です。この2つの言葉で短期・長期を整理できます。
問4 経済学の短期・長期は、日常語の「短い話」「長い話」と同じ意味である。
答え:×
別物です。ここでの短期・長期は、変えられるものの範囲を表す専門的な区切りです。日常語の長短と切り離して受け取ると、混乱が減ります。
問5 短期は今の時点の話、長期はまだ来ていない未来の話、という時点の違いを表している。
答え:×
短期も長期も、どちらも未来に向けた計画の話です。違いは時点ではなく、そのとき何を動かせるかという点にあります。迷ったら「今、変えられないものが残っているか」を確かめます。
次に読む:S1-06「効率と公平は別の話」
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