Q.価格が変わると、買われる数量はどう変わるのか。
A.商品によって反応の「敏感さ」がちがいます。なくても困らないものは値上げで数量が大きく減り、生活に欠かせないものはあまり減りません。この敏感さの度合いを弾力性と呼びます。
まず、どこでつまずくのか
「弾力性(elasticity)」という言葉は、最初は少しとっつきにくく感じられます。ゴムのような「伸び縮み」を思い浮かべる方も多いはずです。
つまずきやすいのは、いきなり計算や数式から入ってしまうときです。数字が先に出てくると、何を測ろうとしているのかが見えなくなります。
ここで大切なのは、次の一点だけです。弾力性は、「値段が変わったとき、買われる数量がどれくらい敏感に反応するか」を表す言葉です。まずはこの「敏感さ」というイメージだけを持っておけば十分です。
ゴムの伸び縮みのイメージは、実はそれほど的外れではありません。よく伸びるゴムと、かたくて伸びにくいゴムがあります。商品にも、値段の変化によく反応するものと、あまり反応しないものがあるのです。
身近な例で考える
近所のパン屋さんを思い浮かべてみます。同じお店で、二つのちがう商品を考えます。
ひとつは、毎朝の食パンです。値段が少し上がっても、朝ごはんは必要なので、買う量はあまり変わりません。10円上がったからといって、朝食を抜く人は多くないはずです。
もうひとつは、たまに買うおしゃれなケーキです。こちらは「今日はやめておこう」と思いやすい商品です。少し値上がりしただけで、買う人がぐっと減ることがあります。
- 食パン:値上げしても数量はあまり減らない(反応が鈍い)
- ケーキ:値上げすると数量が大きく減る(反応が敏感)
この「反応が鈍い・敏感」というちがいこそが、弾力性の中身です。難しい計算はまだ必要ありません。同じ値上げでも、商品によって数量の減り方がちがう、という事実がすべての出発点になります。
「敏感さ」を数字にしてみる気持ち
「敏感さ」を言葉だけで語ると、人によって受け取り方がずれてしまいます。そこで、ざっくりとした比べ方を用意します。
考え方はシンプルです。値段が変わった割合に対して、数量が変わった割合がどれくらい大きいかを見ます。割合どうしを比べる、という点がポイントです。
たとえば、値段が1割上がったとします。このとき数量が2割減れば、値段の変化よりも数量の変化のほうが大きいことになります。反応が敏感だと言えます。
逆に、値段が1割上がっても数量が1分(0.1割ほど)しか減らなければ、反応は鈍いことになります。
- 数量の変化のほうが大きいとき → 敏感(弾力的、elastic)
- 数量の変化のほうが小さいとき → 鈍い(非弾力的、inelastic)
ここでは細かい計算式には立ち入りません。大事なのは、値段の動きと数量の動きを「割合どうし」で見比べる、という感覚です。金額そのものではなく割合で見る点が、弾力性の特徴だと言えます。
ぜいたく品と生活必需品のちがい
反応が敏感になりやすい商品と、鈍くなりやすい商品には、ある程度の傾向があります。
ぜいたく品(luxury goods)は、反応が敏感になりやすいと言われます。なくても生活は困らないため、高くなれば「買うのをやめる」「後回しにする」という選択がしやすいからです。旅行や外食、装飾品などが例に挙げられます。
一方、生活必需品(necessities)は、反応が鈍くなりやすいと言われます。無いと生活が回らないため、多少高くなっても買わざるをえないからです。主食や薬、電気やガスなどが例に挙げられます。
- ぜいたく品:値上げで数量が大きく減りやすい(敏感)
- 生活必需品:値上げでも数量が減りにくい(鈍い)
言葉についてひとつ注意です。経済学で「ぜいたく品」「必需品」と正式に分けるときは、値段への反応ではなく、所得が増えたときに買う量がどれだけ増えるかを基準にします。ここでは、値段への反応をイメージしやすくするための身近な呼び名として使っています。
ただし、これはあくまで傾向です。同じ商品でも、代わりになるもの(代替品、substitute)が身近にあるかどうかで反応は変わります。近くに別の安い店があれば、少しの値上げでもそちらへ移りやすくなります。反応の敏感さは、商品だけでなく状況にも左右されると考えられます。
経済学ではこう使う
経済学では、この「反応の敏感さ」を需要の価格弾力性(price elasticity of demand)と呼びます。長い名前ですが、中身はこれまで見てきた「値上げに数量がどれだけ敏感か」と同じです。
この考え方は、値上げすると売上がどうなるかを見るときに役立ちます。売上は、値段と数量をかけ合わせたものだからです。
反応が鈍い商品では、値上げしても数量があまり減りません。そのため、売上は増えやすくなります。生活必需品の値段が上がりやすい背景には、こうした事情もあると考えられます。
反応が敏感な商品では、値上げすると数量が大きく減ります。そのため、値上げがかえって売上を減らすことも起こりえます。安売りで数量を伸ばす戦略が向くのは、こうした敏感な商品です。
- 鈍い商品:値上げで売上が増えやすい
- 敏感な商品:値上げで売上が減ることもある
不動産の分野でも、この発想は使われます。家賃や地価が変わったときに、借り手や買い手の数がどれくらい反応するか、という見方につながっていきます。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- 弾力性を比べるときは、グラフの傾きではなく弾力性そのものを使います。傾きは軸の取り方や単位で変わってしまうためです。
- 需要の価格弾力性はふつうマイナスになるので、大小を比べるときは絶対値で見ます。
- 代わりになる商品が多いほど、また調整する時間が長いほど、弾力性は大きくなります。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 弾力性とは、値段の変化に対して数量がどれくらい敏感に反応するかを表す考え方である。
問2 値段が高い商品ほど、弾力性は大きく(敏感に)なる。
問3 生活必需品は、値上げしても買われる数量が減りにくい傾向がある。
問4 同じ商品であれば、弾力性はいつでも同じ大きさで変わらない。
問5 弾力性が大きい(敏感な)商品は、弾力性が小さい商品より優れた商品だといえる。
○×の解説
問1 弾力性とは、値段の変化に対して数量がどれくらい敏感に反応するかを表す考え方である。
答え:○
そのとおりです。この記事で覚えておきたいのは、この一点に絞られます。細かい計算は、このイメージを持ってから当てはめれば十分です。
問2 値段が高い商品ほど、弾力性は大きく(敏感に)なる。
答え:×
金額の大きさと敏感さは別の話です。高価でも、無いと困るものは反応が鈍くなります。見るのは金額ではなく、値段と数量の変化の割合です。
問3 生活必需品は、値上げしても買われる数量が減りにくい傾向がある。
答え:○
そのとおりです。無いと生活が回らないため、多少高くなっても買わざるをえないからです。主食や薬、電気やガスなどが例に挙げられます。
問4 同じ商品であれば、弾力性はいつでも同じ大きさで変わらない。
答え:×
同じ商品でも、時期や、代わりになる商品(代替品)があるかどうかで反応は変わります。敏感さは一つの固定値ではないと考えます。
問5 弾力性が大きい(敏感な)商品は、弾力性が小さい商品より優れた商品だといえる。
答え:×
敏感か鈍いかは、良い悪いの話ではありません。その商品の性質を表しているだけです。鈍い商品は値上げで売上が増えやすい、といった使い分けの材料になります。
次に読む:S1-11「需要曲線の正体」
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