Q.無差別曲線と予算制約線が接する点は、なぜいちばん満足が高いのですか。
A.接するとは、二本の線の傾きがその一点でそろうことです。傾きは「気持ちの上で交換したい比(MRS)」と「お店で実際に交換できる比(価格比)」を表します。二つがずれている間は、買う量を少し入れ替えるだけで支払いは同じまま満足を増やせます。その余地がなくなるのが、二つの比が一致する接点です。だから接する点が、予算の範囲でいちばん満足の高い選び方になります。
まず、どこでつまずくのか
この単元では、二本の線が出てきます。一本は無差別曲線(indifference curve)です。もう一本は予算制約線(budget line)です。
多くの人がつまずくのは、この二本が「接する」場所が答えになる、という話です。なぜ交わる点ではなく、接する点なのか。ここが分かりにくいところです。
もう一つのつまずきは、「傾き」という言葉です。傾きが一致すると言われても、何と何が一致するのか、最初はぼんやりします。
この記事では、線や傾きの話に入る前に、まず身近な場面でイメージを作ります。用語はあとから、ゆっくり結びつけていきます。
身近な例で考える
ここに、決まった額のお小遣いがあるとします。たとえば1200円です。買えるのは、りんごとみかんの二種類だけとします。
りんごは1個100円、みかんは1個60円とします。全部りんごに使えば12個買えます。全部みかんなら20個です。もちろん、その間の組み合わせも選べます。
お金には限りがあります。りんごを1個増やせば、その分みかんを何個かあきらめます。これが「予算の制約」です。使えるお金の範囲を線で表したものが、のちの予算制約線です。
一方で、どの組み合わせが「うれしいか」は人それぞれです。りんごばかりでも、みかんばかりでも、ふつうは飽きます。ほどよく混ざっているほうが、満足しやすいものです。
「同じ満足」を線にする
ここで、満足の度合いに注目します。りんご2個とみかん10個。りんご5個とみかん4個。この二つが「どちらでも同じくらいうれしい」と感じることがあります。
このように、満足がちょうど同じになる組み合わせを集めて線でつないだものを、無差別曲線(indifference curve)と呼びます。「どちらを選んでも無差別(同じ)」という意味です。
この線は、右下がりのカーブになります。りんごを減らすなら、同じ満足を保つために、みかんを増やす必要があるからです。
そして、この線は原点(げんてん、図の左下の角)に向かってふくらんだ形になります。少し先で、この「ふくらみ」が効いてきます。
二つの「比」を区別する
ここで、似ているけれど違う二つの「比」を分けて考えます。どちらも「りんごとみかんを何個ずつ交換するか」の話です。
一つ目は、心の中で交換したい比です。りんごを1個あきらめる代わりに、みかんが何個もらえれば満足が変わらないか。この気持ちの上での交換比率を、経済学では限界代替率(marginal rate of substitution、略してMRS)と呼びます。
二つ目は、お店で実際に交換できる比です。りんごは100円、みかんは60円でした。りんご1個をあきらめると100円が浮きます。その100円で、みかんは1個より少し多く買えます。この値段で決まる交換比率を、価格比(price ratio)と呼びます。
読み下すと、MRSは「気持ちの交換レート」、価格比は「お店の交換レート」です。この二つがずれている間は、まだ満足を増やせる余地が残っています。
二本の線を重ねて、接する点を見る
ここまでの話を、一つの図にまとめます。横軸にりんごの数、縦軸にみかんの数をとります。
予算制約線は、まっすぐな右下がりの線です。この線の傾きが、さきほどの価格比を表します。お金で決まる交換レートです。
無差別曲線は、ふくらんだ右下がりのカーブです。ある一点でのカーブの傾きが、その場所でのMRSを表します。気持ちの交換レートです。
満足は、右上にある無差別曲線ほど高くなります。ただし、予算制約線より外にはみ出す組み合わせは、お金が足りず買えません。
そこで、予算制約線に届く範囲で、できるだけ右上の無差別曲線に手が届く点をさがします。その点では、無差別曲線と予算制約線がちょうど接しています。
なぜ「接する」点が一番いいのか
接するとは、二本の線がその一点で同じ傾きになる、ということです。つまり、MRS(気持ちの交換レート)と価格比(お店の交換レート)が一致しています。
もし二つがずれていたら、どうなるかを考えます。(ここでは値段の細かい数字はいったん忘れて、交換の比率だけで考えます。)たとえば、気持ちの上では「りんご1個のためなら、みかんを3個まで手放してもいい」と感じているとします。ところがお店では、みかん2個ぶんを出せば、りんご1個が買えるとします。
このとき、みかんを2個減らして、りんごを1個増やすと、支払いは同じままで満足が増えます。心のなかでは「みかん3個ぶんの値打ちがある」と認めているのに、実際は2個で手に入るからです。まだ得をする余地が残っているのです。
この「まだ得できる余地」がなくなるのが、二つのレートが一致した点です。だから、接する点がいちばん満足の高い選び方になります。ここを最適点(optimal point、いちばんよい点)と呼びます。
経済学ではこう使う
経済学では、この最適点の条件を、次のように短く書きます。MRS = 価格比です。
読み下すと、「気持ちの交換レートと、お店の交換レートが等しくなるところで、買う量が決まる」となります。むずかしそうに見えて、中身はこれまでの話そのままです。
この考え方は、消費者がどれだけ買うかを説明する土台になります。値段が変わると価格比が変わり、接する点も動きます。こうして需要が動く仕組みを、あとの章でたどっていきます。
「なぜ接する点なのか」を言葉で説明できることが大切です。図を描き、二本の線の傾きが一致するからだと説明できれば、十分に対応できます。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- 最適点が「接点」になるのは、無差別曲線がなめらかで原点に凸、かつ両方の財を買う場合です。
- 完全代替では端(どちらか一方だけ)が最適になり、完全補完ではL字の角が最適になります。この場合は接しません。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 最適点では、無差別曲線の傾き(MRS)と予算制約線の傾き(価格比)が一致している。
問2 無差別曲線と予算制約線が二か所で交わっているとき、その交点がいちばん満足の高い点である。
問3 MRSはお店で実際に交換できる比を表し、価格比は気持ちの上で交換したい比を表す。
問4 MRSと価格比がずれていても、予算を使い切ってさえいれば、もう満足を増やす余地はない。
問5 完全代替や完全補完のような形の場合には、最適点が接点にならないこともある。
○×の解説
問1 最適点では、無差別曲線の傾き(MRS)と予算制約線の傾き(価格比)が一致している。
答え:○
接するとは、二本の線がその一点で同じ傾きになるということです。気持ちの交換レートとお店の交換レートが一致し、それ以上得をする余地がなくなった点が最適点です。
問2 無差別曲線と予算制約線が二か所で交わっているとき、その交点がいちばん満足の高い点である。
答え:×
二か所で交わっている場合、その内側にはもっと右上の無差別曲線が入る余地が残っています。交わっている間はまだ満足を増やせるので、答えになるのは接する点です。
問3 MRSはお店で実際に交換できる比を表し、価格比は気持ちの上で交換したい比を表す。
答え:×
説明が逆です。MRSは気持ち側の交換レートで無差別曲線の傾き、価格比はお店側の交換レートで予算制約線の傾きです。
問4 MRSと価格比がずれていても、予算を使い切ってさえいれば、もう満足を増やす余地はない。
答え:×
二つのレートがずれている間は、買う量を少し入れ替えるだけで支払いは同じまま満足を増やせます。その余地がなくなるのが、二つが一致する接点です。
問5 完全代替や完全補完のような形の場合には、最適点が接点にならないこともある。
答え:○
接点が最適になるのは、無差別曲線がなめらかで原点に凸、かつ両方の財を買う場合です。完全代替では端、完全補完ではL字の角が最適になり、接しません。
次に読む:S2-10「完全代替・完全補完」
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