Q.働く人を2倍にしても、収穫が2倍にならないのはなぜですか。
A.畑の広さや道具の数が変わらないまま、人だけを増やしているからです。土地や道具は全員で分け合う「共有の資源」です。人が増えるほど1人あたりが使える土地や道具は減り、追加された1人がこなせる仕事は少なくなります。そのため、増える収穫は最初は大きくても、人を足すたびに小さくなっていきます。これを「限界生産力が逓減(ていげん、だんだん減ること)する」と言います。
まず、どこでつまずくのか
この話でつまずきやすいのは、言葉そのものです。「限界生産力逓減(げんかいせいさんりょくていげん)」と聞くと、とても難しそうに感じます。でも、意味を分けてみると、そんなに複雑ではありません。
まず「逓減(ていげん)」とは、だんだん減っていくことです。一気にゼロになるのではなく、少しずつ小さくなるイメージです。
次に「限界(げんかい, marginal)」という言葉です。日常だと「もう限界だ」のように「これ以上むり」の意味で使います。ですが、経済学での「限界」はまったく別の意味です。ここでは「もう1つ増やしたときの、増える分」を指します。「追加の1つ分」と言いかえると分かりやすいです。
つまり「限界生産力」とは、働く人や道具を1つ増やしたときに、増える収穫(生産)の量のことです。この記事では、この「追加1つ分の増え方」が主役になります。
身近な例で考える:畑を耕す
ここに、決まった広さの畑が1枚あるとします。道具はスコップが数本だけです。この畑で働く人を、1人ずつ増やしてみます。
最初の1人が入ります。この人は畑を広々と使えます。一番よく実る場所を選んで耕せます。だから収穫はぐっと増えます。
2人目が入ります。2人で手分けできるので、まだ効率よく働けます。収穫はさらに増えます。ただし、一番よい場所はもう1人目が使っています。2人目が新しく生み出す収穫は、1人目のときより少し小さくなります。
3人目、4人目と増やしていきます。人が増えるほど、1人が受け持てる土地はせまくなります。スコップの数も足りなくなり、順番待ちが起きます。追加された人が新しく生み出す収穫は、どんどん小さくなっていきます。
大事なのは、収穫の合計は増え続けている点です。増えてはいるのです。ただ、その増え方(追加1人が足す分)が小さくなっていくのです。ここが、この話の中心です。
数字で追いかけてみる
言葉だけだと分かりにくいので、たとえの数字で見てみます。あくまでイメージ用の数字です。畑でとれる収穫を、次のように考えます。
- 0人のとき:収穫は0。
- 1人のとき:収穫は10。1人目が足したのは 10。
- 2人のとき:収穫は18。2人目が足したのは 8。
- 3人のとき:収穫は24。3人目が足したのは 6。
- 4人のとき:収穫は28。4人目が足したのは 4。
右はしの「その人が足した分」に注目します。10、8、6、4と、だんだん小さくなっています。これが「限界生産力が逓減する」ということです。読み下すと「追加1人が生み出す収穫が、少しずつ減っていく」となります。
いっぽうで、収穫の合計(10、18、24、28)は増え続けています。合計は増える、けれど増え方はやせ細る。この2つを分けて見るのがコツです。
なぜ効果が薄れるのか
追加1人の効果が薄れるのは、その人がなまけているからではありません。理由は、畑と道具の量が変わらないまま、人だけを増やしていることにあります。
畑の広さは決まっています。スコップの数も決まっています。これらは、その場にいる全員で分け合う資源です。人が増えれば、1人あたりが使える土地や道具は、必ず減ります。
使える土地や道具が減れば、1人ができる仕事も減ります。だから、あとから加わる人ほど、新しく生み出せる収穫が小さくなるのです。
逆に言うと、畑を広げたり、道具を増やしたりすれば、話は変わります。土地や道具が増えれば、追加された人もまた大きく働けます。限界生産力が逓減するのは、あくまで「土地や道具を増やさず、人だけを変える」という条件のときの話です。この条件がとても大切です。
経済学ではこう使う
経済学では、この畑の話をもっと広い場面にあてはめます。工場、店、農場など、ものを作る場所すべてに通じる考え方だからです。
まず言葉を整理します。人や道具など、生産に使うものを「生産要素(せいさんようそ, factor of production)」と呼びます。畑の例での「働く人」は、生産要素の1つです。
そして、ほかの生産要素の量を変えずに、1つの生産要素だけを増やしていくと、その追加分が生み出す生産量はやがて減っていくという性質があります。これを「限界生産力逓減の法則(law of diminishing marginal returns)」と呼びます。読み下すと「1つの要素だけを足していくと、追加1つ分の生み出す量は、だんだん減っていく」となります。
この考え方は、あとで出てくる「費用がどう増えるか」の話につながります。追加1人の収穫が小さくなるということは、同じ量をさらに多く作るのに、より多くの手間がかかるということです。つまり、たくさん作るほど、追加1個あたりの費用は増えやすくなるのです。限界生産力逓減は、その土台になる考え方です。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- 畑や道具など、他の要素を固定したまま1つの要素だけを増やす、短期の話です。
- はじめのうちは分業が進み、追加の効き目がむしろ増えることもあります。「やがて減っていく」というのが正確です。
- 全部の要素を同時に増やす「規模に関する収穫」(S2-18)とは、別の概念です。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 限界生産力が逓減すると、収穫の合計そのものが減っていく。
問2 経済学の「限界」は、「もう1つ増やしたときに増える分」という意味である。
問3 追加された人が生み出す収穫が小さくなるのは、あとから入る人ほど働く能力が低いからである。
問4 限界生産力逓減は、畑を広げて道具も一緒に増やす場合でも必ず成り立つ。
問5 収穫が0人で0、1人で10、2人で18、3人で24のとき、3人目が足した分は6である。
○×の解説
問1 限界生産力が逓減すると、収穫の合計そのものが減っていく。
答え:×
逓減するのは「追加1人が足す分」であって、収穫の合計ではありません。人を増やしているあいだ、合計はふつう増え続けます。
問2 経済学の「限界」は、「もう1つ増やしたときに増える分」という意味である。
答え:○
日常語の「もう限界だ(これ以上むり)」とはまったく別の意味です。「追加の1つ分」と言いかえると分かりやすくなります。
問3 追加された人が生み出す収穫が小さくなるのは、あとから入る人ほど働く能力が低いからである。
答え:×
この話では、どの人も同じくらいの能力だと考えています。原因は人の質ではなく、土地や道具が限られていることにあります。
問4 限界生産力逓減は、畑を広げて道具も一緒に増やす場合でも必ず成り立つ。
答え:×
これは「ほかの要素を変えずに1つだけ増やす」ときの話です。土地や道具も一緒に増やせば、追加された人もまた大きく働けるので、この通りにはなりません。
問5 収穫が0人で0、1人で10、2人で18、3人で24のとき、3人目が足した分は6である。
答え:○
24から18を引いて6です。10、8、6と追加分がだんだん小さくなることが、限界生産力が逓減するということです。
次に読む:S2-16「MC曲線はなぜAC曲線の最低点を通るか」
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