Q.赤字なのに、なぜお店を閉めずに続けた方がよいことがあるのですか。
A.お店を閉めても、家賃などの「固定費」はかかり続けるからです。売上が材料費や人件費といった「可変費用」を上回っていれば、その差額を固定費の穴埋めに回せます。続けた方が、赤字の額を小さくできるのです。可変費用すら賄えなくなった点が「操業停止点」で、そこが本当にやめるべき分かれ目です。
まず、どこでつまずくのか
「赤字なら、お店は閉めるべきだ」。多くの人がそう考えます。とても自然な感覚です。損が出ているのに続けるのは、おかしく思えます。
ところが経済学では、こう教わります。「赤字でも、続けた方がよいときがある」。ここで頭が混乱します。これが最初のつまずきです。
混乱の原因は、費用を1つのかたまりで見てしまうことにあります。実は費用には、性質のちがう2種類が混ざっています。この2つを分けないと、話が見えてきません。
この記事では、まず費用を2つに分けます。次に「やめる」と「続ける」の分かれ目を、2つの点として整理します。それが操業停止点(shutdown point)と損益分岐点(break-even point)です。
身近な例で考える:たこ焼き屋台
小さなたこ焼き屋台を思い浮かべてください。この屋台には、2種類の費用がかかります。
1つ目は、場所を借りる料金です。仮に1日6千円としましょう。これは、たこ焼きを1個も焼かなくても、屋台を出す限りかかります。作る量に関係なくかかる費用です。
2つ目は、材料代やガス代です。小麦粉、たこ、ソース。これは焼けば焼くほど増えます。作らなければ、ほとんどかかりません。作る量に応じて増える費用です。
この2つには、はっきりした違いがあります。片方は「作らなくてもかかる」、もう片方は「作るからかかる」。この違いが、今日の話の心臓部です。
2つの費用に名前をつける
作らなくてもかかる費用を固定費(fixed cost)と呼びます。屋台の例では、場所代がこれにあたります。量に関係なく一定です。
作るからかかる費用を可変費用(variable cost)と呼びます。材料代やガス代です。作る量が増えれば増えます。
ここで大事な感覚を1つ。固定費は、いったん屋台を出すと決めた後は、もう変えられません。すでに払うことが決まってしまった費用です。閉めても、この日ぶんの場所代は戻ってこない、と考えてください。
だから「続けるか、閉めるか」を今日その場で考えるとき、固定費は判断から外れます。どちらを選んでも同じだけかかるからです。判断を左右するのは、可変費用の方です。
「続けた方がマシ」を数字で確かめる
具体的な数字で見てみましょう。ある一日、たこ焼きの売上が8千円だったとします。可変費用(材料代など)は5千円かかりました。場所代は6千円です。
この日の損益を計算します。売上8千円から、費用の合計(5千円+6千円=1万1千円)を引きます。結果はマイナス3千円。たしかに赤字です。
では、赤字だからと屋台を閉めたらどうなるでしょう。売上はゼロ。材料も使わないので可変費用もゼロ。でも場所代6千円だけは残ります。損はマイナス6千円です。
見比べてください。続ければ損はマイナス3千円。閉めればマイナス6千円。続けた方が、損が3千円少ないのです。赤字でも続けた方がマシ、とはこういう意味です。
なぜそうなるのか:穴埋めの発想
からくりは単純です。売上8千円のうち、まず材料代5千円をまかないます。すると、手元に3千円が残ります。
この残った3千円が、場所代6千円の穴埋めに回ります。おかげで、場所代の負担が6千円から3千円に減るのです。
つまり大切なのは、売上が可変費用を上回っているかです。上回っていれば、その差額を固定費の穴埋めに使えます。閉めるより損が小さくなります。
逆に、売上が可変費用にも届かないときは話が変わります。作れば作るほど、材料代の分だけ損が膨らみます。このときは、閉めた方がマシです。これが分かれ目です。
経済学ではこう使う:2つの点
経済学では、量1個あたりで考える習慣があります。費用を作った量で割った、1個あたりの費用を使います。可変費用を1個あたりにしたものを平均可変費用(average variable cost, AVC)と呼びます。
そして、たこ焼き1個の値段(価格)と、この1個あたりの費用を見比べます。価格が平均可変費用を下回ったら、作るほど損。ここで操業をやめます。この分かれ目が操業停止点です。
もう1つの点も見ましょう。固定費まで全部ふくめた1個あたりの費用を平均費用(average cost, AC)と呼びます。価格がこれと等しくなると、利益はちょうどゼロ。ここが損益分岐点です。
2つの点の上下関係が肝心です。損益分岐点の方が高い位置にあります。操業停止点はその下です。価格がこの2点のあいだにあるとき、赤字だけれど操業は続ける、という状態になります。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- ここでの判断は、固定費がすでに支払い済みで戻ってこないことを前提にしています。休めば避けられる固定費がある場合は、その分も計算に入れます。
- P≧AVCという目安は、価格を自分で決められない(価格受容の)企業についての短期の条件です。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 赤字が出ているなら、いつでもすぐに店を閉めたほうが損は小さくなる。
問2 売上が可変費用を上回っていれば、その差額を固定費の穴埋めに回せるので、閉めるより続けたほうが損は小さくなる。
問3 固定費が大きいときは、その分たくさん作れば固定費を取り返せる。
問4 損益分岐点は「閉めたほうがマシになる」点で、操業停止点は「利益がゼロになる」点である。
問5 価格が損益分岐点と操業停止点のあいだにあるとき、赤字だけれど操業は続ける、という状態になる。
○×の解説
問1 赤字が出ているなら、いつでもすぐに店を閉めたほうが損は小さくなる。
答え:×
これは早すぎる判断です。売上が可変費用を上回っているなら、その差額を固定費の穴埋めに回せるので、続けたほうが損は小さくなります。記事の例では、続ければマイナス3千円、閉めればマイナス6千円でした。
問2 売上が可変費用を上回っていれば、その差額を固定費の穴埋めに回せるので、閉めるより続けたほうが損は小さくなる。
答え:○
固定費は閉めても戻ってこないので、続けるか閉めるかの判断からは外れます。判断を左右するのは可変費用のほうです。売上が可変費用にも届かなければ、作るほど損が膨らむので閉めたほうがよくなります。
問3 固定費が大きいときは、その分たくさん作れば固定費を取り返せる。
答え:×
固定費は作る量を増やしても総額は変わりません。取り返す対象として量を増やすのは筋の違う考えです。判断すべきは、あくまで価格と可変費用の関係です。
問4 損益分岐点は「閉めたほうがマシになる」点で、操業停止点は「利益がゼロになる」点である。
答え:×
説明が入れかわっています。損益分岐点が利益ゼロになる点(価格=AC)で、操業停止点が閉めたほうがマシになる点(価格=AVC)です。位置は損益分岐点のほうが上で、操業停止点はその下にあります。
問5 価格が損益分岐点と操業停止点のあいだにあるとき、赤字だけれど操業は続ける、という状態になる。
答え:○
損益分岐点を割り込んでいるので利益は出ず赤字ですが、まだ可変費用はまかなえているので固定費の穴埋めができます。つまり損益分岐点を割っても、操業停止点より上なら続けるほうが合理的です。2つの点の上下関係を押さえておきます。
次に読む:S2-23「独占はなぜ生産を絞るか」
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