Q.土地の税金は、これから毎年払うのだから、これから土地を買う人が負担するのではないですか。
A.直感的にはそう感じられますが、経済学の答えは違います。税が新しく始まると、その土地の値段は「これから先ずっと払う税を、いまの金額に直したもの(現在価値)」に見合う分だけ、すぐに下がります。将来の買い手は、その下がった安い値段で土地を手に入れます。安く買えた分で、これから払う税がちょうど埋め合わされます。損をするのは、値下がりをまともに受けた「税が始まった時点の持ち主」です。この人は土地を売るときに、値下がりした価格でしか売れません。つまり将来分の税まで、値下がりという形でまとめて先に払ったことになります。これを税の資本化(tax capitalization)と呼びます。
まず、どこでつまずくのか
土地には、毎年かかる税金があります。持っているあいだ、ずっと払い続ける税です。
ここで多くの人が、こう考えます。「税金はこれから毎年払うのだから、これから土地を持つ人が順番に負担していく」と。
とても自然な考え方です。けれども、経済学の答えは少し違います。
答えを先に言うと、こうです。将来ずっと払う分の税が、今の地価に前もってまとめて反映されてしまうのです。
その結果、税が始まった時点で土地を持っていた人が、実は将来分まで含めて負担することになります。
「これから払うはずの税を、なぜ今の持ち主が負担するのか」。ここが最初のつまずきどころです。
この記事では、まず身近な例でイメージを作ります。そのあとで、土地の話にゆっくり戻します。
身近な例で考える:あとから費用がついてくる中古品
まず、土地から少し離れます。中古の自動車を思い浮かべてください。
ある中古車が、ふつうなら100万円で売れるとします。性能も見た目も、それだけの価値があるからです。
ところが、ある日ルールが変わりました。「この型の車を持っている人は、毎年2万円の特別な費用を払うこと」と決まったとします。
この費用は、車を持ち続けるかぎり、ずっとついてきます。次にこの車を買った人も、同じように毎年2万円を払います。
さて、この車を今から買おうとする人は、どう考えるでしょうか。
「この車を買えば、便利さは手に入る。でも、この先ずっと毎年2万円がついてくる」。買い手は、この重荷を差し引いて値段を見積もります。
つまり、これから払う費用の重さの分だけ、買い手が出してもよいと思う金額は下がります。もう100万円は出しません。
ここで大事なのは、値下がりが「今」起きる、という点です。費用は毎年少しずつ払うのに、値段はルールが決まった瞬間に一度に下がります。
「これから先ずっと」を、今の一つの金額にまとめる
では、値段はいくら下がるのでしょうか。ここで一つ、大事な考え方が登場します。
「これから毎年もらえるお金」や「これから毎年払うお金」は、いくつも先まで積み重なると、今のひとまとまりの金額に置きかえられます。
身近な感覚で言えば、こうです。「毎年ずっと2万円をもらえる権利」には、今この場で買い取るとしたら、いくら、という値札がつけられます。
この「今の一つの金額に直したもの」を、経済学では現在価値(present value)と呼びます。
直感を助けるために、簡単な形で説明します。世の中の利回りが年5パーセントだとします。これは「100円を貸すと、1年で5円ふえる」くらいの目安です。
このとき、「毎年ずっと2万円」の現在価値は、2万円を利回り0.05で割って求められます。
式で書くと、2万円 ÷ 0.05 = 40万円 です。読み下すと、毎年2万円の重荷は、今のおよそ40万円分にあたる、ということです。だからさきほどの車は、100万円からおよそ40万円下がった値段でしか売れなくなります。
細かい計算そのものは、今は覚えなくて大丈夫です。大事なのは一点だけです。これから先ずっと続く小さな支払いは、今の大きな一つの金額にまとめて言い直せる、ということです。
同じことが、土地でも起きる
ここで土地に戻ります。中古車の話が、そのまま当てはまります。
まず、税金がまだない世界を考えます。ある土地を貸すと、毎年100万円の地代が入るとします。利回りは、さきほどと同じ年5パーセントとします。
この土地の値段は、毎年100万円を0.05で割った金額です。式にすると、100万円 ÷ 0.05 = 2000万円 です。読み下すと、毎年100万円を生む土地は、今の値段でいうと2000万円ほどになる、ということです。
次に、新しい税が始まります。「この土地を持っている人は、毎年10万円の税を払う」と決まったとします。
すると、土地の持ち主の手元に残るお金は、100万円から10万円を引いた90万円になります。
買い手は、この残る90万円を見て値段を決めます。新しい値段は、90万円 ÷ 0.05 = 1800万円 です。
値段は2000万円から1800万円へ、200万円下がりました。
ここで、下がった200万円の正体を確かめます。毎年払う税10万円を0.05で割ると、10万円 ÷ 0.05 = 200万円 です。
つまり値下がり額200万円は、これから先ずっと払う税を、今の一つの金額にまとめたものとぴったり一致します。将来の税が、今の地価に丸ごと織り込まれたのです。
経済学ではこう使う:税の資本化
今の流れに、名前がついています。税の資本化(tax capitalization)です。
「資本化」という言葉は難しく聞こえます。イメージはこうです。これから毎年続く負担を、今の値段の中に、一度にたたみ込むことです。
土地の値段は、もともと「その土地がこれから生むお金の現在価値」で決まります。だからこそ、将来の税という「これから続く負担」も、今の値段にすぐ反映されます。
ここから、負担を「本当に」引き受けるのは誰かを考えます。ポイントを整理します。
- 税が始まった瞬間に土地を持っていた人は、地価が200万円下がるのをそのまま受けます。売ろうとしても、下がった値段でしか売れません。
- これは、将来分の税をまとめて先に払ったのと同じです。手持ちの財産が一度に200万円へこむからです。この一度きりの目減りをキャピタル・ロス(capital loss、値下がりによる損)と呼びます。
- あとから土地を買う人は、すでに200万円安くなった値段で買います。だから、これから毎年税を払っても、損得はほぼ差し引きゼロです。安く買えた分で、税がちょうど埋め合わされます。
まとめると、こう言えます。毎年の税は、形のうえでは将来の持ち主が払い続けます。けれども、本当の負担は、税が始まった時点の持ち主に一度で集中します。
この考え方は、不動産に税を新しく入れるときの議論で使われます。「誰が払うか」と「誰が本当に負担するか」は別だ、という視点を与えてくれます。
まとめ:形のうえの負担と、本当の負担
最後に、全体を短く振り返ります。
- 土地の値段は、その土地がこれから生むお金を、今の一つの金額に直した現在価値で決まります。
- 新しい税が始まると、これから先ずっと払う税の分だけ、地価が今すぐまとめて下がります。これが税の資本化です。
- 値下がりを受けるのは、税が始まった時点の持ち主です。将来分の税まで、値下がりという形で先に引き受けます。
- あとから買う人は、安くなった値段で買うので、毎年の税を払っても損得はほぼ釣り合います。
「誰が払うか」と「誰が本当に負担するか」は、別の問いです。税の資本化は、その違いをはっきり見せてくれる、経済学のわかりやすい入り口の一つです。
「まるごと織り込まれる」のは、条件がそろったとき
ここまでは、将来の税がぴったり全部いまの地価に反映される場合を見てきました。考え方の骨格としてはこれで十分ですが、現実には次のような条件しだいで、反映の程度は変わります。
- その税がこれからずっと続くと見込まれていること(一時的な税なら影響は小さい)
- 土地の供給が増えないこと(宅地が増える場合は価格の下がり方が変わる)
- 税収で道路や学校などが良くなる場合、その便益も地価を押し上げる方向に働くこと
- 買い手と売り手が、将来の税額をどう予想しているか
「条件がそろえば、将来の税は先に地価へ織り込まれる」――この形で覚えておくと、実務でも応用が利きます。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- 将来の税がまるごと今の地価に映る(完全な資本化)のは、税がずっと続くと予想され、土地の供給が動かない場合です。
- 税収で道路や学校が良くなるなら、その便益は逆に地価を押し上げる方向に働きます。
- 事前に予想されていた税は、発表の前から少しずつ織り込まれていきます。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 税の資本化とは、これから毎年続く税の負担が、今の地価にまとめて反映されることである。
問2 土地に新しい税が始まると、地価は毎年少しずつゆっくり下がっていく。
問3 毎年10万円の税がかかり、利回りが年5パーセントなら、地価は200万円下がる。
問4 税をかけると土地が値下がりするので、税を集める国や自治体も損をする。
問5 税の資本化と同じ話は、日々使ってなくなる食べ物の値段にもそのまま当てはまる。
○×の解説
問1 税の資本化とは、これから毎年続く税の負担が、今の地価にまとめて反映されることである。
答え:○
土地の値段は、その土地がこれから生むお金の現在価値で決まります。だから将来ずっと続く税負担も、今の値段の中に一度にたたみ込まれます。
問2 土地に新しい税が始まると、地価は毎年少しずつゆっくり下がっていく。
答え:×
そうではなく、将来の負担が予想できた時点で一度にストンと下がります。買い手が「この先ずっと続く税」を見越して、今の値づけに織り込むからです。
問3 毎年10万円の税がかかり、利回りが年5パーセントなら、地価は200万円下がる。
答え:○
10万円を0.05で割ると200万円です。この値下がり額は、これから先ずっと払う税を今の一つの金額にまとめたものとぴったり一致します。
問4 税をかけると土地が値下がりするので、税を集める国や自治体も損をする。
答え:×
値下がりが起きるのは土地の持ち主です。税を集める側は、毎年きちんと税収を受け取ります。
問5 税の資本化と同じ話は、日々使ってなくなる食べ物の値段にもそのまま当てはまる。
答え:×
当てはまりやすいのは、値段が「将来の稼ぎの現在価値」で決まるものです。土地や株式がその仲間で、食べ物にはそのままの形では当てはまりません。
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