期待値と期待効用はどう違う? 同じ平均でも「確実な方」を選ぶわけ

ミクロ S2-42 期待値と期待効用 のアイキャッチ ミクロ経済学

Q.期待値が同じくじなら、どちらを選んでも損得は変わらないのでは?

A.金額の平均(期待値)は同じでも、「満足の平均」は同じとは限りません。多くの人にとって、手元のお金が増えるほど、追加の1万円から得る満足は少しずつ小さくなります。この性質があると、賭けて外す痛みが、当たる喜びより大きく感じられます。そのため満足の平均で比べると、確実な方が上になり、確実な方を選ぶ、という説明ができます。これが期待効用の考え方です。

⭐ 重要度:A / 出題頻度:A

📘 テキスト対応:第7章 7-1(期待効用)

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まず、どこでつまずくのか

この話には、似た言葉が2つ出てきます。期待値(expected value)期待効用(expected utility)です。名前が近いので、同じものだと思ってしまいがちです。ここが最初のつまずきどころです。

もう一つの壁があります。「同じ期待値なら、どっちを選んでも一緒でしょう」という感覚です。ところが現実には、確実な方をわざわざ選ぶ人が大勢います。この感覚と現実のズレが、なかなか飲み込めません。

この記事では、いきなり用語を使いません。まず身近なくじの場面を思い浮かべます。そのうえで、「金額の平均」と「満足の平均」という2つの見方を、順番に分けて考えていきます。

身近な例で考える

2つのくじを思い浮かべます。どちらか片方だけ選べる、とします。

  • くじA:確実に1万円もらえます。はずれはありません。
  • くじB:コインを1回投げます。表なら2万円、裏なら0円です。

くじBは、半分の確率で2万円、半分の確率で0円です。うまくいけばAの倍、外せば手元には何も残りません。

ここで一度、立ち止まってみます。この2つは「平均するとどちらも同じくらい」なのでしょうか。それとも、どちらかが得なのでしょうか。この問いを2つの見方で調べていきます。

見方その1 金額の平均=期待値

まず「金額の平均」で比べます。これが期待値です。期待値は、起こりうる金額に、それぞれの確率をかけて、全部足したものです。

くじBを計算してみます。表(2万円)が起こる確率は2分の1、裏(0円)が起こる確率も2分の1です。

  • 2万円 × 2分の1 = 1万円
  • 0円 × 2分の1 = 0円
  • 合計:1万円 + 0円 = 1万円

読み下すと、「2万円を半分の重みで、0円を半分の重みで混ぜると、平均は1万円になる」ということです。くじAは確実に1万円なので、期待値はそのまま1万円です。

つまり、金額の平均で見ると、AもBも同じ1万円です。この見方だけなら、2つは引き分けです。

見方その2 満足を数字にしてみる

次に、金額そのものではなく、「そのお金でどれだけうれしいか」を考えます。この「うれしさ・満足の度合い」を、経済学では効用(utility)と呼びます。

ここで大事な性質があります。お金は、少ないうちの1万円ほど値打ちが大きく感じられます。逆に、すでにたくさん持っている人にとっての追加の1万円は、ありがたみが薄くなります。

例えば、持ち金が0円の人がもらう最初の1万円は、とてもありがたく感じられます。すでに1万円持っている人が、もう1万円もらって2万円になるときの「増えたうれしさ」は、それより控えめです。

言いかえると、金額が2倍になっても、満足はきっちり2倍にはなりません。満足の増え方は、だんだんゆるやかになるのです。この性質は多くの人に共通します。

見方その2のつづき 満足の平均=期待効用

満足を仮の点数にして、くじBを見てみます。数字はイメージ用の例で、金額そのものではありません。

  • 0円のときの満足:0点
  • 1万円のときの満足:10点
  • 2万円のときの満足:16点

ここに、満足のゆるやかさが出ています。0円から1万円で10点も増えるのに、1万円から2万円では6点しか増えていません。増え方が細くなっています。

この満足の点数で「平均」をとったものが期待効用、つまり満足の平均です。くじBの満足の平均を計算します。

  • 16点 × 2分の1 = 8点
  • 0点 × 2分の1 = 0点
  • 合計:8点

一方、くじAは確実に1万円なので、満足は10点そのものです。並べてみます。

  • くじA(確実に1万円)の満足:10点
  • くじB(半々で2万円か0円)の満足の平均:8点

金額の平均はどちらも1万円で同じでした。ところが満足の平均では、Aの10点がBの8点を上回ります。満足で比べると、確実なAの方が上になるのです。これが「同じ期待値でも確実な方を選ぶ」ことの説明になります。

経済学ではこう使う

経済学では、人は「金額の平均(期待値)」ではなく、「満足の平均(期待効用)」が高くなる方を選ぶ、と考えます。これを期待効用の考え方と呼びます。

先ほどのように、満足の増え方がゆるやかな人は、確実なくじの満足が、賭けるくじの満足の平均を上回りやすくなります。こうした人を、経済学では危険回避的(risk averse)と表現します。「損する可能性を避けたがる」という意味あいです。

この考え方は、身近な行動を説明できます。例えば保険です。多くの人は、めったに起きない大損に備えて、少しの保険料を進んで払います。金額の平均だけで見れば、払う保険料の方が受け取る額より多いこともあります。それでも、大損したときの満足の落ち込みが大きいので、確実に少し払う方を選ぶ、と説明できます。

反対に、宝くじを買う行動もあります。同じ人が、保険に入りつつ宝くじも買うことがあります。人の選び方は一枚岩ではありません。ここでは「期待値と期待効用は別物だ」という点をつかめれば十分です。

※ この説明が成り立つ前提

ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。

  • 「確実な方を選ぶ」のは、リスクを嫌う(リスク回避的な)人を想定した場合です。気にしない人・好む人もいます。
  • 厳密には、くじの賞金だけでなく、手持ちの財産まで含めた最終的な金額に対して満足を考えます。

○×で確認

ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。

問1 期待値と期待効用は呼び方が違うだけで、どちらも金額の平均を表している。

問2 期待値は、起こりうる金額にそれぞれの確率をかけて、全部足したものである。

問3 記事の例では、確実に1万円もらえるくじAと、半々で2万円か0円のくじBとで、金額の平均が違っている。

問4 期待値が同じくじで、あえて確実な方を選ぶのは、筋の通らない非合理な行動である。

問5 お金が増えるほど追加の1万円から得る満足がゆるやかにしか増えない人は、賭けるくじより確実なくじを選びやすい。

○×の解説

問1 期待値と期待効用は呼び方が違うだけで、どちらも金額の平均を表している。

答え:×

期待値は金額の平均、期待効用は満足の平均で、測っているものが違います。名前が近いので混同しやすい点です。

問2 期待値は、起こりうる金額にそれぞれの確率をかけて、全部足したものである。

答え:○

半々で2万円か0円のくじなら、2万円×2分の1と0円×2分の1を足して1万円になります。これが金額の平均としての期待値です。

問3 記事の例では、確実に1万円もらえるくじAと、半々で2万円か0円のくじBとで、金額の平均が違っている。

答え:×

くじBの期待値も計算すると1万円なので、金額の平均はどちらも同じです。差が出るのは満足の平均のほうで、Aが10点、Bが8点になります。

問4 期待値が同じくじで、あえて確実な方を選ぶのは、筋の通らない非合理な行動である。

答え:×

満足の平均で見れば、確実な方が上になっています。だから確実な方を選ぶのは筋の通った行動で、むしろ多くの人に当てはまるふつうの選び方です。

問5 お金が増えるほど追加の1万円から得る満足がゆるやかにしか増えない人は、賭けるくじより確実なくじを選びやすい。

答え:○

満足の増え方が細くなるほど、外したときの落ち込みが当たったときの喜びを上回りやすくなります。こうした人を経済学では危険回避的と表現します。


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