Q.金額の平均が同じなら、確実にもらうのと賭けるのは、どちらを選んでも同じではないのですか。
A.金額の平均は同じでも、満足の平均は同じになりません。効用の線が凹(上に曲がって増え方が鈍る形)だと、増えたときの喜びより減ったときの不満のほうが大きく響きます。そのため、賭けで得られる満足の平均は、確実にもらう満足より低くなります。金額の平均と満足の平均を分けて考えることが出発点です。
まず、どこでつまずくのか
教科書には、こう書いてあります。「効用関数が凹(おう、concave)なら、人はリスクを嫌う」。
この一文で、多くの人が止まります。
理由は、知らない言葉が三つ重なっているからです。「効用」「凹」「リスクを嫌う」。どれも日常の会話では使いません。
しかも、三つがどうつながるのかは、たいてい書いてありません。
そこでこの記事では、身近な感覚から出発します。専門用語は、イメージができてから導入します。前提知識はゼロで大丈夫です。
身近な例で考える
財布に千円だけ入っているとします。そこへ千円をもらいます。とても嬉しいはずです。
次に、百万円を持っているとします。そこへ同じ千円をもらいます。嬉しいですが、さっきほどではありません。
金額は、どちらも同じ千円です。でも、感じる嬉しさは違います。
ここで大事な言葉を導入します。効用(こうよう、utility)です。効用とは、手に入れたものから感じる満足の大きさのことです。
お金が増えれば、効用も増えます。ただし、増え方はだんだん小さくなります。手持ちが多いほど、追加の千円のありがたみは薄くなるのです。
満足の『増え方』がだんだん鈍る
この「増え方がだんだん小さくなる」様子を、グラフにしてみます。
横軸にお金、縦軸に満足(効用)をとります。すると線は右上がりになります。お金が増えれば満足も増えるからです。
ただし、まっすぐな線にはなりません。上に向かって、ゆるくカーブします。
最初は急に立ち上がり、右へいくほど寝ていきます。この形を凹(おう、concave)と呼びます。
凹とは、上に曲がって、増え方がだんだん鈍る形のことです。難しい定義は覚えなくてかまいません。「最初は満足がぐんと増え、あとはゆるやかになる線」と思えば十分です。
増えた喜びより、減った不満のほうが大きい
この凹の形には、大事な性質があります。
今、五万円を持っているとします。この手元のお金が、五万円増えるか、五万円減るか、どちらかだと考えます。
五万円増えて十万円になると、満足は増えます。これを「増えた喜び」と呼びます。
五万円減って0円になると、満足は減ります。これを「減った不満」と呼びます。
ここが肝心です。金額はどちらも同じ五万円です。ところが、減った不満のほうが、増えた喜びより大きく感じられます。
理由は、線が凹だからです。手元が少ないところでは線が急なので、減るときの落ち込みが大きくなります。逆に、手元が多いところでは線がゆるいので、増えても満足はあまり伸びません。
経済学ではこう使う:確実と賭けを比べる
ここで、いよいよ「リスクを嫌う」という話につながります。
二つの選択肢を考えます。
- 選択肢A:確実に十万円もらえる。
- 選択肢B:コインを投げて、表なら二十万円、裏なら0円。
もらえる金額の平均は、どちらも十万円です。Bは半々で二十万円か0円なので、平均すると十万円になるからです。
金額の平均が同じなら、どちらを選んでも同じに思えます。でも、満足で比べると違います。
Bの賭けでは、二十万円になったときの喜びより、0円になったときの不満のほうが大きく響きます。線が凹だからです。
そのため、二十万円のときと0円のときの満足を平均すると、確実な十万円の満足より低くなります。
結果として、平均の金額は同じでも、確実なAのほうが満足は高くなります。これがリスク回避(risk aversion)です。賭けより確実を選ぶ心の動きを、こう呼びます。
図で確かめる
この関係は、一枚の図でつかめます。
横軸はお金、縦軸は満足です。線は凹のカーブです。
まず、0円の点と、二十万円の点を、まっすぐな線でつなぎます。この直線のちょうど真ん中の高さが、賭けBの満足の平均です。半々の平均だからです。
一方、確実な十万円の満足は、カーブそのものの上の点です。
カーブは上に膨らんでいます。ですから、カーブ上の点は、直線の真ん中より上にきます。
この「カーブ上の点」と「直線の真ん中」の高さの差が、確実を選んだときの得です。図を見れば、平均の金額が同じでも確実のほうが満足は高い、と一目でわかります。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- ここでの説明は、お金が増えるほど満足の増え方が小さくなる(限界効用逓減)という前提に立っています。
- 「もうけの喜びより損の痛みが大きい」という言い方は、行動経済学の損失回避という別の考え方と混ざりやすいので注意してください。ここでは、あくまで曲線の形からくる話です。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 効用とは、手に入れたものから感じる満足の大きさのことである。
問2 リスク回避とは、損が怖くて何もしないことである。
問3 効用の線が凹であるとは、お金が増えても満足がまったく増えないという意味である。
問4 効用の線が凹の人にとって、確実に十万円もらう満足は、半々で二十万円か0円になる賭けの満足の平均より高い。
問5 効用の線が凹の人は、どんな条件でも絶対に賭けを選ばない。
○×の解説
問1 効用とは、手に入れたものから感じる満足の大きさのことである。
答え:○
お金が増えれば効用も増えます。ただし、手持ちが多いほど追加の千円のありがたみは薄くなり、増え方はだんだん小さくなります。
問2 リスク回避とは、損が怖くて何もしないことである。
答え:×
リスク回避は「平均が同じなら確実を選ぶ」という意味です。割に合えば賭けもします。
問3 効用の線が凹であるとは、お金が増えても満足がまったく増えないという意味である。
答え:×
満足はちゃんと増えます。凹とは、上に曲がって増え方が鈍る形のことで、増えないという意味ではありません。
問4 効用の線が凹の人にとって、確実に十万円もらう満足は、半々で二十万円か0円になる賭けの満足の平均より高い。
答え:○
金額の平均はどちらも十万円ですが、二十万円になった喜びより0円になった不満のほうが大きく響きます。そのため賭けの満足の平均は、確実な十万円の満足より低くなります。
問5 効用の線が凹の人は、どんな条件でも絶対に賭けを選ばない。
答え:×
賭けの平均金額が確実な金額より十分に高ければ、賭けを選ぶこともあります。凹が示すのは、平均が同じときに確実を選ぶ、という性質です。
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