Q.確実性等価とリスクプレミアムは、それぞれ何を表す言葉ですか。
A.確実性等価(certainty equivalent)は、当たり外れのある賭けを「確実にこの金額をもらえるのと同じ」と感じるときの、その確実な金額です。リスクプレミアム(risk premium)は、賭けの期待値(平均的にもらえる額)から確実性等価を引いた差です。リスクを避けたい気持ちが強い人ほど確実性等価は小さくなり、リスクプレミアムは大きくなります。この差は、その賭けの不確実さを消すために払ってよい上乗せ分を表します。
まず、どこでつまずくのか
この単元には、似た言葉がいくつも出てきます。期待値、効用、期待効用、確実性等価、リスクプレミアム。名前が多くて、どれが何だったか分からなくなりがちです。
つまずきの多くは、じつは1点に集まります。それは「お金の金額」と「そのお金から得られる満足」を別のものとして扱う、という考え方です。ふだんの生活では、この2つをほとんど同じものとして扱っています。100万円は100万円、という感覚です。
ところが経済学では、金額そのものと、そこから受け取る満足(これを効用と呼びます)を、いったん切り離して考えます。この切り離しに慣れると、確実性等価もリスクプレミアムも、するりと理解できます。まずはここを、身近な例からゆっくりほぐしていきます。
身近な例で考える
こんなくじを想像してみます。コインを1回投げます。表が出たら200万円もらえます。裏が出たら0円、つまり何ももらえません。表と裏は半々の確率で出るとします。
このくじ、平均するといくらもらえるでしょうか。半分の確率で200万円、半分の確率で0円ですから、ならしてみると100万円です。この「ならした平均の金額」を期待値(expected value)と呼びます。ここでは期待値は100万円です。
さて、ここで別の選び方を用意します。「くじを引く」のではなく、「確実に、いま手元でいくらか受け取って終わりにする」という選び方です。では質問です。確実にもらえる金額がいくらなら、このくじと同じくらい魅力的だと感じるでしょうか。
- 確実に100万円もらえるなら、多くの人はくじより確実な100万円を選びます。当たり外れがない分、こちらが安心だからです。
- では確実に20万円ならどうでしょう。今度は「それなら一発当てる可能性があるくじの方がいい」と感じる人が増えます。
- その間のどこかに、「確実な金額」と「くじ」がちょうど釣り合う、引き分けの金額があるはずです。
たとえばその釣り合いの金額が50万円だったとします。「確実な50万円」と「平均100万円のくじ」が、その人にとって同じ魅力に感じられる、ということです。
「確実にいくらなら同じ」=確実性等価
いま出てきた、くじとちょうど釣り合う確実な金額のことを、確実性等価(certainty equivalent)と呼びます。「等価」とは、価値が等しい、という意味です。当たり外れのある賭けを、その人が「確実にこの金額をもらうのと同じ」と感じる、その金額のことです。
先ほどの例では、確実性等価は50万円でした。くじの期待値は100万円でしたから、確実性等価50万円は、それより小さい金額になっています。ここが大事な点です。
なぜ、平均は100万円もあるのに、50万円で釣り合ってしまうのでしょうか。理由は「不確実さが嫌だから」です。多くの人は、当たるか外れるか分からない状態を、あまり心地よく感じません。だから「平均100万円のドキドキ」よりも、「確実な50万円の安心」の方を、同じくらいに評価してしまうのです。
このように、不確実さそのものを嫌う性質をリスク回避的(risk averse)と呼びます。リスクを避けたい気持ちが強い人ほど、確実性等価は小さくなります。「確実なら少なくてもいい」と感じるからです。
期待値との差=リスクプレミアム
ここまでで、2つの金額が出そろいました。整理します。
- 期待値=くじの平均の金額。例では100万円。
- 確実性等価=そのくじと釣り合う確実な金額。例では50万円。
この2つの差を計算してみます。100万円から50万円を引くと、50万円です。この差額50万円を、リスクプレミアム(risk premium)と呼びます。式にすると次のようになります。
リスクプレミアム = 期待値 − 確実性等価。日本語で読み下すと、「不確実さを引き受けた見返りとして必要になる、上乗せ分の金額」です。
言いかえると、リスクプレミアムは「その人が、不確実さを消すためなら手放してもよいと感じている金額」です。例の人は、平均100万円のくじを、確実な50万円と同じだと感じました。つまり「確実になるのなら、50万円分は差し引かれても構わない」と考えているわけです。この50万円が、その人が不確実さ回避のために払ってよい金額の上限になります。
経済学ではこう使う
ここで、最初にお話しした「金額と満足(効用)を切り離す」考え方が効いてきます。経済学では、金額と満足の関係を1本の曲線で表します。これを効用曲線と呼びます。
この曲線には、多くの人に共通する特徴があります。お金が増えるほど満足は増えるが、その増え方はだんだん小さくなる、という特徴です。0円から100万円に増えたときの嬉しさは大きいですが、1000万円から1100万円に増えたときの嬉しさは、それほど大きく感じません。同じ100万円の増加でも、手持ちが多いほど、ありがたみは薄れていきます。
この「増え方がだんだん小さくなる」性質のせいで、効用曲線は上に膨らんだ形(上に凸。前の記事S2-43で「凹」と呼んだのと同じ形です)になります。そして、この形こそが、確実性等価が期待値より小さくなる理由です。当たりの大きな満足より、外れの大きな不満足の方が重く効くため、平均の満足(期待効用)は、平均の金額から得られる満足より低くなるのです。今回の図は、まさにこの様子を描いています。
この考え方の代表的な使いみちが保険です。保険とは、「小さな確実な支払い(保険料)」と引きかえに、「大きな不確実な損失」を引き受けてもらうしくみです。人はリスク回避的なので、不確実な損失を消せるなら、いくらか多めに払ってもよいと感じます。その「多めに払ってもよい上乗せ分」がリスクプレミアムです。
ただし、実際に払ってよい保険料の上限は、リスクプレミアムそのものではありません。まず平均していくら損しそうか(期待損失)があり、それに上乗せ分を足した金額が上限になります。
- 期待損失 + リスクプレミアムより安い保険料なら、その人にとって保険に入る方が得だと感じられます。
- それより高い保険料なら、割に合わないと感じ、入らない方を選びます。
このように、確実性等価とリスクプレミアムは、「人はなぜ保険に入るのか」「保険料はどこまでなら受け入れられるのか」を説明する道具になります。
まとめ
最後に、要点を短く並べておきます。
- 当たり外れのある賭けを、「確実にいくらもらえるのと同じ」と感じるか。その確実な金額が確実性等価です。
- くじの平均の金額が期待値です。リスク回避的な人では、確実性等価は期待値より小さくなります。
- その差、期待値 − 確実性等価 がリスクプレミアムです。不確実さを消すために払ってよい上乗せ分です(保険料全体の上限は、期待損失にこれを足した金額です)。
- この関係が生まれるのは、効用曲線が上に膨らんだ形(お金が増えるほど満足の増え方が小さくなる形)をしているからです。
「金額」と「満足」を切り離して眺める。この一手間に慣れると、確実性等価もリスクプレミアムも、同じ図の上の別々の場所として、すっきり見分けられるようになります。
保険料との関係をもう一歩だけ
リスクプレミアムは「保険料そのものの上限」ではありません。ここだけ整理しておきます。
損害に備える保険では、まず平均していくら損しそうか(期待損失)があります。保険会社が損得なしで引き受けるなら、保険料はこの期待損失ぶんです。
リスク回避的な人は、それに上乗せしてでも不確実さを消したいと考えます。この上乗せしてよい分がリスクプレミアムです。つまり――
払ってよい保険料の上限 = 期待損失 + リスクプレミアム
リスクプレミアム単独ではなく、期待損失に足したものが上限になる、という点だけ押さえておいてください。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- 確実性等価の具体的な金額は、その人の効用曲線(リスクの嫌い方)を決めてはじめて計算できます。例の50万円は仮の数字です。
- 保険料の上限は、リスクプレミアム単独ではなく期待損失+リスクプレミアムです。
- リスクプレミアムがプラスになるのは、リスク回避的な人の場合です。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 確実性等価と期待値は、同じ金額を指す言葉である。
問2 リスクプレミアムは、くじの期待値から確実性等価を引いた差である。
問3 リスクプレミアムは、効用(満足)どうしの引き算で求める。
問4 リスクを避けたい気持ちが強い人ほど、確実性等価は小さくなる。
問5 同じくじであれば、確実性等価は誰にとっても同じ金額になる。
○×の解説
問1 確実性等価と期待値は、同じ金額を指す言葉である。
答え:×
別物です。期待値はくじの平均の金額で、気持ちと無関係に計算で決まります。確実性等価は「確実ならこれで釣り合う」とその人が感じる金額で、リスクを嫌う度合いによって変わります。
問2 リスクプレミアムは、くじの期待値から確実性等価を引いた差である。
答え:○
そのとおりです。期待値100万円のくじの確実性等価が50万円なら、リスクプレミアムは100−50=50万円です。これは、不確実さを消すためなら手放してもよいと感じている金額を表します。
問3 リスクプレミアムは、効用(満足)どうしの引き算で求める。
答え:×
引き算するのは効用ではなく金額どうしです。図の上では、期待効用の高さから左へたどって曲線にぶつけ、そこから真下に下ろして横軸の金額で読み取ります。縦方向ではなく横方向の差として測ります。
問4 リスクを避けたい気持ちが強い人ほど、確実性等価は小さくなる。
答え:○
そのとおりです。「確実なら少なくてもいい」と感じるからです。その分、期待値との差であるリスクプレミアムは大きくなります。
問5 同じくじであれば、確実性等価は誰にとっても同じ金額になる。
答え:×
確実性等価は人によって違います。不確実さが苦手な人は小さく見積もり、平気な人は大きく見積もります。だから同じ保険でも「入りたい人」と「入りたくない人」に分かれます。
次に読む:S2-45「μ-σ平面の無差別曲線」
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