Q.縦軸リスク・横軸収益の平面で、無差別曲線が右上がりになるのはなぜですか。
A.横に進む(収益が増える)のはうれしいことですが、そのままでは満足が上がってしまいます。満足を同じに保つには、うれしくないこと、つまりリスクを増やして帳消しにする必要があります。リスクは縦軸なので、収益が増えるほどリスクも上へ増える組み合わせが並びます。その点をつなぐと、右へ行くほど上がる線、つまり右上がりの曲線になります。
まず、どこでつまずくのか
この話でつまずく原因は、たいてい2つあります。
- 「無差別曲線(むさべつきょくせん、indifference curve)」という言葉が、いきなり出てくること。
- グラフの縦と横に何を置くかが、場面によって変わること。
とくに2つ目が大事です。今回は縦にリスク、横に収益をとります。多くの教科書は逆に描くこともあります。だから「右上がり」と言われても、ピンとこないのは自然なことです。
そこで、言葉から入らず、まず身近な場面でイメージを作ります。図やグラフはそのあとで十分です。
身近な例で考える
ここに2つのアルバイトがあるとします。
- アルバイトA…毎回きっちり1万円もらえる。
- アルバイトB…うまくいけば2万円、外れると0円。平均すると1万円ぐらい。
もらえる平均の金額は、どちらも同じくらいです。この「平均でどれくらいもらえるか」を、ここでは収益(しゅうえき、リターン、return)と呼びます。
ちがうのはブレの大きさです。Aはいつも同じ、Bは大当たりも大外れもあります。この「結果がどれだけブレるか」をリスク(risk)と呼びます。危険という意味ではなく、結果のばらつきのことです。
多くの人は、同じ平均ならブレの小さいAを選びたくなります。つまり、収益は多いほどうれしく、リスクは小さいほどうれしいのがふつうです。
「無差別」ってどういうこと
次に、少し条件を変えてみます。
- アルバイトA…毎回きっちり1万円。ブレなし。
- アルバイトC…平均1万2千円だが、当たり外れが大きい。
Cはブレが大きいかわりに、平均のもうけが少し多いです。すると人によっては、「AでもCでも、まあ同じくらい満足」と感じることがあります。
このように、中身はちがうのに満足の度合いが同じ組み合わせを、「無差別(むさべつ)」と言います。「どちらでも差がない」という意味です。
満足が同じ組み合わせを、平面の上にいくつも打っていって、点をつなぐと1本の線になります。これが無差別曲線です。名前はむずかしいですが、中身は「満足が同じ点を結んだ線」です。
なぜ右上がりになるのか
では、縦にリスク、横に収益をとった平面で考えます。右へ行くほど収益が多く、上へ行くほどリスクが大きい、という約束です。
いま、ある1つの組み合わせから出発します。ここから収益だけを増やす、つまり右へ動くとどうなるでしょうか。収益が増えるのはうれしいので、満足が上がってしまいます。
でも、無差別曲線は満足が同じ点だけを結ぶ線でした。満足を元にもどさなければ、同じ線の上にはいられません。
そこで、うれしくないこと、つまりリスクを増やして帳消しにします。リスクは縦軸なので、これは上へ動くことです。
- 右へ動く(収益が増える)=満足が上がる。
- そのままでは線から外れるので、上へ動く(リスクが増える)=満足を下げて元にもどす。
結局、右へ進んだら上へ進む必要があります。この点をつないでいくと、右へ行くほど上がる線、つまり右上がりの曲線になります。これが今回の結論です。
経済学ではこう使う
経済学や投資の話では、この平面をμ-σ平面(ミュー・シグマへいめん)と呼ぶことがあります。むずかしい記号ですが、意味はシンプルです。
- μ(ミュー、mu)…平均の収益。上の例の「平均でいくらもらえるか」。
- σ(シグマ、sigma)…ブレの大きさ、つまりリスク。結果がどれだけばらつくか。
σは「標準偏差(ひょうじゅんへんさ)」という、ばらつきをはかる代表的なものさしです。ここでは「リスクの大きさを数字で表したもの」と考えれば十分です。
この平面の上で、人それぞれの「満足が同じ組み合わせ」を線にしたのが無差別曲線です。今回のように縦をリスク、横を収益にとると、その線は右上がりになります。
そして、満足が高い方向は右下です。収益が多く(右)、リスクが小さい(下)ほど、うれしいからです。だから、より右下にある無差別曲線ほど、満足の高い線だと読み取れます。
軸の取り方に注意
いちばん注意したいのが、縦横のどちらに何を置くかです。ここが今回のいちばんの要点です。
- 今回…縦がリスク、横が収益。無差別曲線は右上がり。満足が高いのは右下。
- 逆に置いた場合…縦が収益、横がリスク。このときの無差別曲線も右上がりですが、満足が高いのは左上になります。
どちらの置き方でも、「うれしいもの(収益)が増えたら、うれしくないもの(リスク)で帳消しにする」という理屈は同じです。だから線はどちらでも右上がりになります。
変わるのは満足が高い向きです。グラフを見るときは、まず軸のラベルを確認すること。これだけで多くの混乱を防げます。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- この記事は、テキストに合わせて縦軸リスク・横軸収益で描いています。金融で標準的な「横軸リスク・縦軸収益」とは向きが逆で、傾きの見え方も裏返ります。同じサイトでも、S7-08「効率的フロンティア」は標準的な向き(横軸σ・縦軸μ)で描いています。グラフを見たらまず軸を確かめる、という習慣をつけてください。
- 右上がりになるのは、収益を好みリスクを嫌う(リスク回避的な)人を想定した場合です。
- 曲線の曲がり方は、その人がどれくらいリスクを嫌うかで変わります。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 ここでいうリスクとは「危険」のことではなく、結果のばらつきの大きさのことである。
問2 縦にリスク、横に収益をとった平面では、無差別曲線は右下がりになる。
問3 無差別曲線に沿って右上へ動いていくと、満足の度合いはだんだん上がっていく。
問4 縦がリスク・横が収益の平面では、満足が高い方向は右下である。
問5 リスクをどれだけ嫌うかは人によって違うが、無差別曲線の傾きは誰でも同じになる。
○×の解説
問1 ここでいうリスクとは「危険」のことではなく、結果のばらつきの大きさのことである。
答え:○
そのとおりです。大当たりの可能性も、ばらつきの一部としてリスクに含まれます。大外れだけを指す言葉ではない点に注意します。
問2 縦にリスク、横に収益をとった平面では、無差別曲線は右下がりになる。
答え:×
右上がりになります。右へ進んで収益が増えると満足が上がってしまうので、うれしくないリスクを増やして帳消しにする必要があり、上へ動くことになるからです。
問3 無差別曲線に沿って右上へ動いていくと、満足の度合いはだんだん上がっていく。
答え:×
無差別曲線は満足が同じ点を結んだ線なので、線に沿って動いても満足は変わりません。満足が変わるのは、別の無差別曲線へ移るときです。
問4 縦がリスク・横が収益の平面では、満足が高い方向は右下である。
答え:○
そのとおりです。収益が多く(右)、リスクが小さい(下)ほどうれしいからです。より右下にある無差別曲線ほど、満足の高い線だと読み取れます。
問5 リスクをどれだけ嫌うかは人によって違うが、無差別曲線の傾きは誰でも同じになる。
答え:×
リスクをどれだけ嫌うかで傾きは変わります。この平面(横が収益・縦がリスク)では、リスクを強く嫌う人ほど線はゆるやかになります(同じ収益の増え方に対して、強くリスクを嫌う人は少しのリスク増しか受け入れないため、上への動きが小さくなるからです)。ただし向きは軸の取り方で反転するので、まず軸を確認します。
次に読む:S2-46「パレート効率」
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