パレート効率とは何か ―「ムダがない」状態をやさしく

ミクロ S2-46 パレート効率 のアイキャッチ ミクロ経済学

Q.パレート効率な状態とは、みんなが満足している「良い」状態のことですか。

A.いいえ、「良い」状態という意味ではありません。パレート効率とは「誰かの満足を下げないかぎり、もう誰の満足も上げられない」状態、つまり改善の余地(ムダ)がなくなった状態のことです。たとえ一人が全部を持ち、他の人が何も持っていなくても、そこから誰かを傷つけずに改善できないなら、それはパレート効率です。公平さとは別の話であり、あくまで「配分にムダがあるかどうか」だけを表す言葉です。

⭐ 重要度:A / 出題頻度:B

📘 テキスト対応:第8章 8-1(パレート効率)

📗 前提記事S1-06「効率と公平は別」

⏱ 読了目安:9分

まず、どこでつまずくのか

「パレート効率(Pareto efficiency)」という言葉は、多くの初学者がつまずく場所です。理由ははっきりしています。

この言葉には「効率」という文字が入っています。そのため、つい「良い状態」「みんなが得している状態」だと思ってしまいます。

ところが、経済学でいう効率は、そういう意味ではありません。ここが最初の落とし穴です。

パレート効率が指すのは、あくまで「ムダがない」という一点だけです。良いか悪いか、公平か不公平か、という話はいったん脇に置きます。

そこで、まずは日常のありふれた場面から、この「ムダがない」というイメージを作っていきます。用語の細かい説明は、あとにします。

身近な例で考える

友だち3人で、お弁当を分ける場面を想像してみます。おかずは、からあげ・卵焼き・ミニトマトの3種類です。

最初は、なんとなく適当に配りました。すると、こんな状態になったとします。

  • Aさんは、からあげが好きなのに卵焼きを持っている
  • Bさんは、卵焼きが好きなのにミニトマトを持っている
  • Cさんは、ミニトマトが好きなのにからあげを持っている

この状態には、まだ「ムダ」があります。全員が、自分の好きなものと別のものを持っているからです。

そこで3人で交換します。Aさんはからあげを、Bさんは卵焼きを、Cさんはミニトマトを受け取りました。

この交換では、誰も損をしていません。しかも全員が、前より嬉しくなりました。おかずの量は同じなのに、満足だけが増えたのです。

つまり、最初の状態には「もっと良くできる余地」が残っていたわけです。

「もう良くできない」状態が効率

さて、交換が終わったあとの状態を見てみます。全員が、自分の一番好きなものを持っています。

ここからさらに交換しようとすると、どうなるでしょうか。誰かが好きなものを手放すことになります。

たとえばAさんがからあげを誰かに渡せば、Aさんの満足は下がります。もう「全員がもっと嬉しくなる交換」は残っていません。

この「誰かの満足を下げないかぎり、もう誰の満足も上げられない」状態こそが、パレート効率です。

ポイントは、ムダがなくなった、という一点です。交換によって引き出せる嬉しさを、すべて使い切った状態、とも言えます。

逆に、まだ全員を嬉しくできる交換が残っているなら、その状態はパレート効率ではありません。ムダが残っているからです。

「効率が良い」は「望ましい」ではない

ここで、とても大切な注意があります。パレート効率は、「良い状態」を意味しません。

極端な例を考えます。ケーキが1個あり、Aさんが丸ごと全部を持ち、Bさんは何も持っていないとします。

これは不公平に見えます。ところが、この状態もパレート効率になりえます。

なぜなら、Bさんの取り分を増やすには、Aさんの取り分を減らすしかないからです。つまり「誰かを損させずに、誰かを得させる」ことができません。

だからこの配分は、ムダがないという意味では効率的です。しかし、公平とは言えません。

ここから分かることがあります。効率と公平は別の物差しだ、ということです。パレート効率は、公平さについては何も語りません。

経済学ではこう使う

経済学では、この考え方をもっと広い場面で使います。お弁当やケーキだけの話ではありません。

社会全体で、限られた資源(お金・時間・材料・労働)をどう配るか。その配り方に「ムダ」があるかどうかを判断する道具として使います。

途中の交換のように、「誰も損させずに、少なくとも一人を得させる」変化のことを、パレート改善(Pareto improvement)と呼びます。

そして、パレート改善がもう一つも残っていない状態が、パレート効率です。言いかえると、改善の余地を使い切った状態です。

経済学では、市場の取引がうまく働くと、こうしたムダのない状態に近づく、と説明されます。売りたい人と買いたい人が交換を重ね、得できる余地を減らしていくからです。

ですから経済学者は、ある仕組みや政策を見るとき、まず「ここにムダは残っていないか(パレート改善はできないか)」を確かめます。効率を測る、共通のものさしとして役立つのです。

まとめ

最後に、この節の要点を短くまとめます。

  • パレート効率とは、誰かの満足を下げないかぎり、もう誰の満足も上げられない状態のことです。
  • それは「良い・公平」という意味ではなく、「ムダがない」という意味です。
  • 誰も損させずに誰かを得させる変化を、パレート改善と呼びます。それが尽きた状態が、パレート効率です。
  • 効率と公平は別のものさしです。効率的でも、不公平なことはあります。

お弁当の交換のイメージを思い出せば、この言葉はもう難しくありません。まだ全員を嬉しくできる交換が残っていれば「ムダあり」、もう残っていなければ「ムダなし(=パレート効率)」です。

もう一つ大事な点。ムダのない分け方は、一つとは限りません。半分ずつ分けた状態も、一人が全部を持つ状態も、どちらもパレート効率になり得ます。どれを選ぶかは、公平さという別の物差しの出番です。

※ この説明が成り立つ前提

ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。

  • パレート効率は「ムダが残っていないか」だけを見る物差しです。分け方の公平さは測りません
  • パレート効率な分け方は1つではなく、たくさんあります。どれを選ぶかには公平性など別の基準が必要です。
  • お弁当の例は、品物をこれ以上分けられない・好みがはっきりしている、という単純化のうえで成り立っています。

○×で確認

ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。

問1 パレート効率とは、誰かの満足を下げないかぎり、もう誰の満足も上げられない状態のことである。

問2 パレート効率とは、みんなが満足している望ましい状態のことである。

問3 一人が全部を持ち、他の人が何も持っていない配分でも、パレート効率になりうる。

問4 パレート効率な状態は、必ずただ一つに決まる。

問5 誰も損させずに少なくとも一人を得させる変化がまだ残っていても、その状態はパレート効率と呼べる。

○×の解説

問1 パレート効率とは、誰かの満足を下げないかぎり、もう誰の満足も上げられない状態のことである。

答え:○

これがパレート効率の定義です。交換によって引き出せる嬉しさを、すべて使い切った状態とも言えます。

問2 パレート効率とは、みんなが満足している望ましい状態のことである。

答え:×

パレート効率が指すのは「ムダがない」という一点だけです。良いか悪いか、幸福の量が多いかどうかは、この言葉が語る内容ではありません。

問3 一人が全部を持ち、他の人が何も持っていない配分でも、パレート効率になりうる。

答え:○

他の人の取り分を増やすには、持っている人の取り分を減らすしかないからです。不公平に見えても、ムダがないという意味では効率的で、ここから効率と公平は別の物差しだと分かります。

問4 パレート効率な状態は、必ずただ一つに決まる。

答え:×

ムダのない配り方はいくつも存在しえます。そのどれを選ぶかは、効率とは別の判断になります。

問5 誰も損させずに少なくとも一人を得させる変化がまだ残っていても、その状態はパレート効率と呼べる。

答え:×

そうした変化はパレート改善と呼ばれ、それが残っているならまだムダがあります。パレート改善が一つも残っていない状態が、パレート効率です。


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