Q.エッジワースのボックスで、箱の中の1点は何を表しているのですか。
A.1点は、2人の持ち分の「分け方」を1通り表します。左下原点のAさんから見た横・縦の長さがAさんの持ち分、右上原点のBさんから見た長さがBさんの持ち分です。2人の量を足すと必ず箱の全体量になるので、1点が動くと一方が増え他方が減ります。
まず、どこでつまずくのか
この図で多くの人が最初に戸惑うのは、1つの長方形の中に、原点が2つあるという点です。ふつうグラフの原点は左下に1つだけです。ところがこの図では、左下だけでなく右上にも原点があります。
しかも、片方の原点から見ると軸は右と上に伸び、もう片方の原点から見ると軸は左と下に伸びます。向きが逆なのです。ここで頭がこんがらがります。
もう1つのつまずきは、点が1つしかないのに、2人分の情報が入っていることです。1点で1人分を表すなら分かりやすいのですが、この図は1点で2人の持ち分を同時に表します。ここを先に受け入れておくと、あとが楽になります。
身近な例で考える
まず、図のことは忘れます。かわりに、机の上のおすそ分けを思い浮かべます。
AさんとBさんの2人がいます。そして品物は2種類だけ、リンゴとパンだとします。テーブルの上には、リンゴが合わせて10個、パンが合わせて8個あります。この合計はずっと変わりません。
この10個のリンゴと8個のパンを、2人でどう分けるかを考えます。たとえばAさんがリンゴを6個とパンを5個持つとします。すると残りは自動的に決まります。リンゴは10引く6で4個、パンは8引く5で3個がBさんの分です。
ここが大事な感覚です。合計が決まっているので、Aさんの分を決めれば、Bさんの分は勝手に決まります。片方が増えれば、もう片方は必ずその分だけ減ります。この「合計は一定」という感覚が、図を読む土台になります。
2人の持ち分を1つの箱に押し込む
では、さきほどの分け方を図にします。まずAさんだけのグラフを描きます。左下を原点にして、横軸にAさんのリンゴの数、縦軸にAさんのパンの数をとります。Aさんがリンゴ6個・パン5個なら、横に6・縦に5の場所に点を打ちます。ここまではふつうのグラフです。
つぎにBさんのグラフを用意します。ここで工夫をします。Bさんのグラフを、上下も左右もひっくり返して、Aさんのグラフに重ねるのです。すると、Bさんの原点はちょうど右上の角に来ます。
2つのグラフを重ねると、横の長さはリンゴの合計10個、縦の長さはパンの合計8個の、1つの長方形になります。これがエッジワースのボックス(Edgeworth box)です。箱の横幅がリンゴの総量、縦幅がパンの総量を表す、と覚えておきます。
箱の中の1点の読み方
いよいよ、箱の中の1点を読みます。点は1つですが、読み方を2通り用意します。
左下のAさんの原点から点を見ます。右へどれだけ離れているかがAさんのリンゴ、上へどれだけ離れているかがAさんのパンです。さきほどの例なら、右に6・上に5の位置です。
同じ点を、今度は右上のBさんの原点から見ます。左へどれだけ離れているかがBさんのリンゴ、下へどれだけ離れているかがBさんのパンです。右端まで残り4、上端まで残り3なので、Bさんはリンゴ4個・パン3個です。
横方向を見ると、Aさんの6とBさんの4を足して、ちょうど箱の横幅10になります。縦方向も、5と3を足して8になります。1つの点が、2人の持ち分の「分け方」を1通り丸ごと表しているわけです。箱の中のどこに点を置いても、この足し算は必ず成り立ちます。
経済学ではこう使う
経済学がこの箱を使うのは、交換のようすを1枚の絵にしたいからです。点を1つ動かすことが、そのまま「2人の間で持ち分をやりとりした」ことを意味します。やりとりには、たがいに別々の財を交換する場合と、一方へまとめて渡す場合があります。
たとえば点が右下へ動くと、Aさんはリンゴが増えてパンが減り、Bさんはちょうどその逆になります。これが「AさんのパンとBさんのリンゴを交換した」という姿です。左上へ動けば、その反対の交換になります。
いっぽう点が右上へ動くと、Aさんは両方とも増え、Bさんは両方とも減ります。これは交換というより、一方へまとめて渡したことにあたります。点の移動が、そっくりそのまま持ち分のやりとりになっているのです。
最初の分け方を表す点を「初期保有(initial endowment)」と呼びます。日本語では、交換を始める前のもともとの持ち分、という意味です。ここから2人が交換をすると、点が箱の中を移っていきます。
この先の章では、2人が「これ以上交換しても得しない」と感じて落ち着く点を探します。その落ち着き先を調べる舞台として、この箱がくり返し登場します。まずは箱と点の読み方そのものを、ここでしっかり体に入れておきます。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- 箱の横幅と縦の高さは、2人が持つ財の合計量を表します。合計が変わらない(生産しない)交換だけの世界です。
- 相互の交換は右下や左上への移動にあたります。右上・左下への移動は、両方の財を一方へ渡す「移転」です。
- 2人の無差別曲線がともに改善する範囲(レンズ形の部分)に動けるとき、交換の余地があります。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 エッジワースのボックスでは、Aさん用とBさん用に点を2つ打つ必要がある。
問2 エッジワースのボックスの横幅はリンゴの合計、縦幅はパンの合計を表している。
問3 2人がリンゴとパンを交換すると、それに合わせて箱の大きさも変わる。
問4 Bさんの持ち分も、Aさんと同じように左下の原点から右と上へ測る。
問5 箱の中の点は、必ず箱の内側か縁の上にあり、外へ出ることはない。
○×の解説
問1 エッジワースのボックスでは、Aさん用とBさん用に点を2つ打つ必要がある。
答え:×
点は1つで足ります。その1つの点を、左下のAさんの原点と右上のBさんの原点から別々に読むだけです。1点が2人の持ち分の分け方を丸ごと1通り表しています。
問2 エッジワースのボックスの横幅はリンゴの合計、縦幅はパンの合計を表している。
答え:○
箱の縦横の長さは2つの財の総量です。記事の例ではリンゴ10個、パン8個が箱の幅と高さになります。だから箱の中のどこに点を置いても、2人の量を足すと必ず総量になります。
問3 2人がリンゴとパンを交換すると、それに合わせて箱の大きさも変わる。
答え:×
交換をしても合計は変わらないので、箱の大きさは動きません。動くのは中の点だけです。点が動くと、一方が増えてもう一方が同じだけ減ります。
問4 Bさんの持ち分も、Aさんと同じように左下の原点から右と上へ測る。
答え:×
Bさんの原点は右上です。Bさんのリンゴは「左へ」、パンは「下へ」測ります。Aさんと同じ向きで測ると数が合わなくなります。
問5 箱の中の点は、必ず箱の内側か縁の上にあり、外へ出ることはない。
答え:○
点が箱の外に出るということは、誰かがマイナスの量を持つことを意味しますが、そんなことは起こりません。だから点は必ず箱の内側か縁の上にあります。分け方はすべて箱の中で表せます。
次に読む:S2-48「市場以外の配り方」
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