Q.中古車を売買してもGDPが増えないのはなぜですか。
A.中古車はすでに過去に生産され、そのときGDPに数えられているからです。GDPは一定期間に「新しく生み出された価値」だけを測ります。中古品は所有者が変わるだけで、新しい生産は起きていません。だから売買金額そのものはGDPに入りません。ただし、仲介した業者の手数料は、その期間に新しく提供されたサービスなのでGDPに入ります。
まず、どこでつまずくのか
GDP(gross domestic product、国内総生産)は、ニュースで毎日のように出てきます。しかし、初めて学ぶ人がつまずく場所は、いつもだいたい同じです。
それは「お金が動けば、なんでもGDPに入るのだろう」という思い込みです。中古品を売っても、株を買っても、お金は確かに動きます。だから全部GDPに入りそうに見えます。
ところが、実際はそうではありません。GDPが数えているのは「お金の動き」そのものではないからです。ここを取り違えると、あとの話が全部ぼやけてしまいます。
そこでこの記事では、まず「GDPは何を数えているのか」を、日常のイメージからゆっくり作っていきます。用語は、イメージができてから出します。
身近な例で考える:パン屋さんの一日
小さなパン屋さんを思い浮かべてください。このお店が、朝から夕方までにしたことを追ってみます。
お店は小麦粉を仕入れます。仕入れ値は100円だとします。その小麦粉をこねて、焼いて、パンにします。そしてパンを300円で売ります。
さて、このお店は「いくら分の新しい価値」を生み出したのでしょうか。売った金額の300円でしょうか。それとも、別の数え方があるのでしょうか。
ここで大事なのは、小麦粉の100円は、このお店が作った価値ではない、という点です。小麦粉は、別の誰か(製粉会社)がすでに作ったものです。お店はそれを買ってきただけです。
お店が本当に付け加えたのは、「小麦粉をパンに変えた」ぶんの価値です。売値300円から、仕入れ値100円を引いた、差額の200円です。
この「新しく付け加えられた200円」を、経済学では付加価値(value added、付け加えられた価値)と呼びます。GDPが数えているのは、まさにこの付加価値です。
付加価値を足していくと、二重に数えない
もし「売った金額」をそのまま全部足すと、おかしなことが起きます。同じ価値を、何度も数えてしまうのです。
さきほどのパンで考えてみます。関わった人を順に並べます。
- 農家が小麦を育てて、製粉会社に40円で売る
- 製粉会社が小麦粉にして、パン屋に100円で売る
- パン屋がパンにして、客に300円で売る
ここで売値をそのまま足すと、40円+100円+300円で440円になります。でも、これは変です。農家の小麦は、製粉会社の100円の中にもう含まれています。製粉会社の小麦粉は、パン屋の300円の中にもう含まれています。同じものを、二重にも三重にも数えているのです。
そこで、それぞれが「新しく付け加えたぶん」だけを足します。農家は40円、製粉会社は60円(100円-40円)、パン屋は200円(300円-100円)。合計すると300円です。
この300円は、最後にパンが売れた値段とちょうど同じになります。つまり、付加価値を全部足すと、最終的に売れたものの値段になるのです。GDPは、この考え方で国全体の生産を数えています。
経済学ではこう使う
ここまでのイメージを、経済学の言葉でまとめます。
GDP(国内総生産)とは、一定期間に、国内で新しく生み出された付加価値の合計です。ここには、大事な条件が三つ入っています。
- 一定期間:ふつうは1年、または3か月です。GDPは「その期間の中で」生み出されたぶんだけを数えます。過去に作られたものは含みません。
- 国内で:その国の中で行われた生産を数えます。誰が作ったか(国籍)ではなく、どこで作ったか(場所)で数えるのが特徴です。
- 新しく生み出された付加価値:さきほどのパン屋の200円のように、それぞれが新しく付け加えたぶんだけを足します。
「新しく生み出された」という言葉には、もう一つの意味があります。それはフロー(flow、流れ)という考え方です。GDPは、その期間に流れた量を測る数字です。今どれだけ財産があるか(これをストック、stock、蓄えと呼びます)を測る数字ではありません。
たとえるなら、GDPは「その月にお風呂の蛇口から出た水の量」です。「浴槽に今たまっている水の量」ではありません。この違いは、あとで出てくる中古品や株の話につながります。
境目に立つ、まぎらわしい例
最後に、判断に迷いやすい例をいくつか並べます。「新しく生み出されたか」を基準に見分けると、すっきりします。
- 新築の家を買う:入ります。その期間に新しく建てられたものだからです。一方、中古の家の売買そのものは入りません(仲介手数料は入ります)。
- プレゼントでもらったお金や仕送り:入りません。これはお金が移っただけで、何かを新しく作ったわけではないからです。こうしたお金の移動を移転(transfer、移し替え)と呼びます。
- 宝くじの当たり:入りません。これも生産ではなく、お金の移動だからです。
- 去年作って売れ残った商品を今年売る:今年のGDPには入りません。作られた去年のぶんとして、すでに数えられているからです。
迷ったときは、いつも同じ問いに戻ってください。「その期間に、新しいモノやサービスが生み出されたか」です。お金が動いたかどうかではありません。ここがGDPを理解する一番の芯になります。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- GDPが数えるのは、原則として市場で取引された生産です。家庭内の家事や育児は、お金のやりとりがないため入りません(持ち家の家賃など、例外的に推計して足すものもあります)。
- 「新しく生み出された価値」は、一定期間・国内という区切りつきで数えます。
- GDPの大きさと、暮らしの豊かさや幸福は同じものではありません(S5-07でくわしく扱います)。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 GDPとは、一定期間に国内で新しく生み出された付加価値の合計である。
問2 お金が動く取引であれば、中古品の売買も株の売買も、すべてGDPに数えられる。
問3 中古車の売買では、車の売買金額も仲介した業者の手数料も、どちらもGDPには入らない。
問4 GDPは、誰が作ったか(国籍)ではなく、どこで作ったか(場所)で数える。
問5 農家40円、製粉会社100円、パン屋300円という売値をそのまま足した440円が、この経済のGDPになる。
○×の解説
問1 GDPとは、一定期間に国内で新しく生み出された付加価値の合計である。
答え:○
付加価値とは、売値から仕入れ値を引いた「新しく付け加えたぶん」です。GDPはお金の動きそのものではなく、この付加価値を数えています。
問2 お金が動く取引であれば、中古品の売買も株の売買も、すべてGDPに数えられる。
答え:×
どちらも持ち主が変わっただけで、新しいモノやサービスは生まれていません。だから売買金額そのものはGDPに入りません。
問3 中古車の売買では、車の売買金額も仲介した業者の手数料も、どちらもGDPには入らない。
答え:×
売買金額そのものは入りませんが、仲介業者の手数料は入ります。仲介というサービスは、その期間に新しく提供されたものだからです。
問4 GDPは、誰が作ったか(国籍)ではなく、どこで作ったか(場所)で数える。
答え:○
「国内で」という条件は、その国の中で行われた生産を数えるという意味です。場所で数えるのがGDPの特徴です。
問5 農家40円、製粉会社100円、パン屋300円という売値をそのまま足した440円が、この経済のGDPになる。
答え:×
それでは同じ価値を二重三重に数えてしまいます。それぞれが新しく付け加えた40円・60円・200円を足した300円が正しく、最後に売れた値段と一致します。
次に読む:S3-02「三面等価の原則」
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