帰属家賃 ― 持ち家の人も「自分に家賃を払っている」と考えるわけ

マクロ S3-03 帰属家賃 のアイキャッチ マクロ経済学

Q.持ち家に住む人は家賃を払っていないのに、なぜGDPに家賃分が含まれるのですか。

A.持ち家に住む人も、家という財から「住むサービス」を毎月受け取っています。統計では、その人が自分に家賃を払い、同時に受け取っているとみなします。これを帰属家賃(imputed rent)と呼びます。こうしないと、同じ家に住んでも借家か持ち家かでGDPが変わってしまい、統計がぶれるためです。

⭐ 重要度:B / 出題頻度:B

📘 テキスト対応:第11章 11-1(帰属家賃)

📗 前提記事S3-01「GDPとは」

⏱ 読了目安:9分

まず、どこでつまずくのか

「帰属家賃(imputed rent)」という言葉は、初めて読むととても不思議に感じます。

「持ち家の人が、自分に家賃を払う」と説明されるからです。

お金は動いていません。財布から一円も出ていきません。

それなのに「家賃を払ったことにする」と言われます。

ここで多くの人が引っかかります。

つまずきの原因は、たいてい次の思い込みにあります。

  • 「家賃とは、他人に払うお金のことだ」という思い込み
  • 「お金が動かないなら、経済とは関係ない」という思い込み

この記事では、まずこの思い込みをほどいていきます。

そのうえで、なぜ統計にわざわざ含めるのかを見ます。

身近な例で考える

いったん家のことは忘れて、身近な話から始めます。

ここに、りんごを一箱つくった農家があるとします。

ふつうは、そのりんごを市場で売ります。

売れば、いくらで取引されたかが記録に残ります。

では、その農家が箱の半分を自分の家で食べたらどうでしょう。

食べた分は、売っていません。値段もついていません。

でも、りんごが生み出す「食べられるという価値」は同じです。

売っても、自分で食べても、りんご自体の値打ちは変わりません。

ここで大事な発想が出てきます。

お金が動いたかどうかと、価値が生まれたかどうかは、別のことです。

自分で食べたりんごにも、ちゃんと価値はあります。

ただ、市場を通らなかったので記録に残らなかっただけです。

家も「毎月サービスを生んでいる」と考える

次に、家に話を戻します。

家は、そこに住む人へ「住むという便利さ」を毎日与えています。

雨風をしのげる。眠れる。荷物を置ける。くつろげる。

これは、家が毎月生み出している一種のサービスです。

ここで、借りている場合を考えます。

借家(しゃくや)に住む人は、この便利さの対価として家賃を払います。

家賃は「住むサービスを毎月買っている値段」だと言えます。

では、持ち家に住む人はどうでしょう。

家賃は払っていません。しかし、住む便利さは同じように受け取っています。

家という財が生むサービスの中身は、借家でも持ち家でも変わりません。

変わるのは、お金を他人に払うかどうかだけです。

さきほどのりんごと同じ構図が見えてきます。

価値は生まれているのに、市場を通らないので記録に残らないのです。

借家と持ち家を並べてみる

この差が問題になる場面を、簡単な例で並べます。

まったく同じつくりの家が、隣り合って二軒あるとします。

  • A さんは、その家を借りて住み、毎月十万円の家賃を払っている
  • B さんは、まったく同じ家を持っていて、家賃は払っていない

住んでいる家の中身は、二軒とも同じです。

受け取っている「住む便利さ」も、ほぼ同じはずです。

ところが、お金の流れだけを見ると差が出ます。

A さんの十万円は、家賃として世の中の取引に記録されます。

B さんの分は、お金が動かないので、そのままでは記録に残りません。

ここで、もし記録に残る分だけを数えたらどうなるでしょう。

同じ価値の家に住んでいるのに、Bさんの分だけ数え落とすことになります。

これは、統計としては具合が悪い状態です。

経済学ではこう使う

そこで登場するのが、帰属家賃(imputed rent)という工夫です。

「帰属」とは、ここでは「そういうものとして割り当てる」という意味です。

持ち家に住む人について、こう考えます。

  • その人は、自分の家に住むサービスを買っている
  • その人は、自分の家を貸してサービスを売っている
  • その二役を、同じ一人が兼ねている

言いかえると、自分に家賃を払い、同時に自分で受け取っているとみなします。

この「みなした家賃」が、帰属家賃です。

金額は、近くの似た借家がいくらで貸されているかを目安に決めます。

そして、この帰属家賃を国内総生産(GDP、Gross Domestic Product)に含めます。

GDP とは、その国で一定期間に生み出された価値の合計のことです。

帰属家賃を含めることで、次の利点が生まれます。

  • 借家でも持ち家でも、住む価値を同じように数えられる
  • 持ち家が増えても減っても、統計が不自然にぶれない

もし帰属家賃を入れないと、どうなるでしょう。

たとえば、多くの人が借家から持ち家に移った年を考えます。

払う家賃が減るので、記録に残る額だけを数えると GDP が下がって見えます。

実際には、みんな前と同じように家に住んでいるだけです。

暮らしは変わっていないのに、数字だけが落ちてしまいます。

帰属家賃は、こうした見かけ上のぶれを防ぐための仕組みなのです。

おさえておきたいポイント

大事な点は、この記事で見てきた通りです。

持ち家も住むサービスを生んでおり、その価値を借家と同じように数えるために帰属家賃を計上する、という点です。

金額は、似た条件の借家の家賃を手がかりに見積もる、という点も押さえておくと安心です。

最後に、全体をひと言でまとめます。

帰属家賃とは、持ち家が生む「見えない家賃」を、統計がぶれないように数えるための工夫です。

※ この説明が成り立つ前提

ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。

  • 帰属家賃の金額は、近くの似た借家の家賃を手がかりに推計します。厳密な市場価格そのものではありません。
  • 「自分に家賃を払う」は説明のためのたとえで、実際にお金が動くわけではありません。
  • 家庭内の生産がすべてGDPに入るわけではなく、統計上推計できる一部(持ち家の住宅サービスなど)が対象です。

○×で確認

ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。

問1 帰属家賃は、持ち家に住む人が実際にどこかへ支払っているお金である。

問2 帰属家賃とは、持ち家に住む人が自分に家賃を払い、同時に自分で受け取っているとみなした金額である。

問3 帰属家賃とは、家そのものを売り買いしたときの値段のことである。

問4 お金が動いていないのだから、帰属家賃はGDPには関係がない。

問5 帰属家賃を含めないと、借家から持ち家に移る人が増えた年に、GDPが見かけ上下がってしまう。

○×の解説

問1 帰属家賃は、持ち家に住む人が実際にどこかへ支払っているお金である。

答え:×

お金は動きません。あくまで統計上のみなしであって、持ち家の人がどこかに十万円を振り込むわけではありません。

問2 帰属家賃とは、持ち家に住む人が自分に家賃を払い、同時に自分で受け取っているとみなした金額である。

答え:○

そのとおりです。持ち家の人は「住むサービスを買う人」と「自分の家を貸して売る人」の二役を兼ねている、と考えます。金額は、近くの似た借家の家賃を目安に決めます。

問3 帰属家賃とは、家そのものを売り買いしたときの値段のことである。

答え:×

別の話です。帰属家賃は「毎月住むサービス」に対応する金額であって、家の売買代金ではありません。

問4 お金が動いていないのだから、帰属家賃はGDPには関係がない。

答え:×

関係があります。GDPが数えたいのは生み出された価値であって、お金が動いたかどうかではありません。農家が自分でりんごを食べても価値があったのと、同じ考え方です。

問5 帰属家賃を含めないと、借家から持ち家に移る人が増えた年に、GDPが見かけ上下がってしまう。

答え:○

そのとおりです。払う家賃が減るので、記録に残る額だけを数えるとGDPが下がって見えます。実際には暮らしは変わっていないので、帰属家賃はこうした見かけ上のぶれを防ぐ仕組みです。


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