Q.Y=C+I+G+NX の Y は「生産」ですか、それとも「所得」ですか。
A.どちらも同じものを指します。国の中で作られたモノやサービスの総額(生産)は、それを作った人たちが受け取る金額(所得)と一致します。さらにそれは、誰かがそのモノやサービスに払ったお金(支出)とも一致します。Y はこの「生産=所得=支出」という一つの金額のことで、右辺の C+I+G+NX は、その金額を「何に使われたか」という支出の側面から四つに分けたものです。
まず、どこでつまずくのか
マクロ経済(macroeconomics、国全体を扱う経済学)の教科書は、たいてい Y=C+I+G+NX という式から始まります。多くの初学者は、ここでいきなり手が止まります。
つまずく理由は、だいたい次の三つです。
- アルファベットが五つも並び、それぞれが何を指すのか分からない。
- 「生産」なのか「所得」なのか「支出」なのか、Y の正体があいまいなまま進んでしまう。
- なぜ足し算でつながるのか、その理由を説明されないまま「覚えなさい」と言われる。
この記事では、式を先に見せません。まず日常のお金の流れから始めます。イメージができてから、最後に式へ戻ります。この順番なら、無理なく理解できます。
身近な例で考える:誰かの支出は、誰かの所得
コンビニでおにぎりを一つ買う場面を思い浮かべてください。代金として120円を払います。
この120円は、支払った側から見れば「支出」です。しかし受け取ったお店から見れば「売上」、つまり「所得(income、収入)」になります。同じ120円が、片側では出ていくお金、もう片側では入ってくるお金です。
ここが大切な出発点です。誰かが払ったお金は、必ず誰かが受け取ったお金になります。宙に消えるお金はありません。
国全体でも同じことが起きています。国の中で一年間に売れたモノやサービスの合計金額を考えます。それは「みんなが払った金額の合計」であり、同時に「みんなが受け取った金額の合計」でもあります。だから、国全体の生産額と、国全体の所得額は一致します。
さらに、生産されたモノは、最終的には誰かに買われて使われます(売れ残りの扱いは後で触れます)。ですから「生産額」「所得額」「支出額」は、見る角度が違うだけで、金額としては同じ一つの数になります。この数を Y と書きます。
Y を「使われ方」で四つに分ける
ここまでで、Y という一つの金額があると分かりました。次に、その金額が「何に使われたか」で四つに分けます。国の中で買い物をする主役は、大きく分けて四種類いるからです。
一つ目は 家計(かけい、ふつうの家庭)です。二つ目は 企業(きぎょう、会社)です。三つ目は 政府(せいふ)です。四つ目は 海外(かいがい、外国)です。この四人の買い物を合計すれば、Y の全体になります。順番に見ていきます。
C:消費(Consumption)
家計がふだんの生活のために買うものです。食料品、洋服、電気代、外食、映画のチケットなど、暮らしのための支出がここに入ります。金額としては、多くの国でいちばん大きな部分を占めます。
I:投資(Investment)
ここは注意が必要です。日常語の「投資」は株を買うことを指しますが、経済学の I は違います。将来もっと生産するために、企業が新しく買う設備や建物のことです。工場の建設、機械の購入、店舗の新設などです。家計が新しく建てる住宅も、この I に含めるのがふつうです。株の売買は、お金の持ち主が変わるだけで新しいモノが作られないので、ここには入りません。
もう一つ、作ったのに売れ残った在庫も I に入ります(在庫投資)。売れ残りを「企業が自分で買った」と数えることで、作られたものが必ずどれかの使い道に振り分けられ、左辺と右辺がぴったり一致します。
G:政府支出(Government spending)
政府がモノやサービスを買うための支出です。道路や橋を作る、公立学校を運営する、公務員に給料を払う、といった支出が入ります。ただし、年金や生活保護のように「お金を配るだけ」の支出は、政府が何かを買っているわけではないので、G には入れないのがふつうです。
NX:純輸出(Net eXports)
「純(じゅん)」は「差し引きした後の」という意味です。純輸出は、輸出から輸入を引いた差です。式で書くと、NX=輸出(export)-輸入(import)となります。読み下すと「純輸出は、外国に売った金額から、外国から買った金額を引いたもの」です。輸入を引く理由は、次の節でていねいに説明します。
なぜ輸入を引くのか
純輸出でいちばん分かりにくいのは、輸入を「引く」ところです。ここを具体例で押さえます。
ある家計が、外国製のスマートフォンを8万円で買ったとします。この8万円は、家計の消費なので、まず C に含まれています。
しかし、このスマートフォンは日本国内で生産されたものではありません。Y は「国内で生産した金額」を表す数でした。ですから、外国で作られた分を、どこかで差し引いておく必要があります。
そこで、輸入額を NX の中でマイナスとして引きます。こうすると、C に一度入れた「外国製の分」が、NX でちょうど打ち消されます。結果として、Y には「国内で生産した分」だけが正しく残ります。
つまり輸入を引くのは、外国で作られたモノを国内生産から取り除くための調整です。C や I や G の中には外国製品も混じっているので、その分を最後にまとめて引いていると考えると、すっきりします。
経済学ではこう使う
この式は、暗記のための飾りではありません。国の経済を測ったり、動きを考えたりするときの土台になります。
まず、この Y は現実の統計と結びついています。国内で一年間に新しく生み出された価値の合計を GDP(Gross Domestic Product、国内総生産)と呼びます。Y=C+I+G+NX は、その GDP を支出の側から四つに分けた形にあたります。ニュースで「今年の GDP は消費が伸びた」などと言うとき、まさにこの C の話をしています。
次に、この式は「景気を動かすには、どこを増やせばよいか」を考える地図になります。景気が悪いとき、家計は不安で消費 C を控えがちです。そこで政府支出 G を増やして、落ち込んだ分を補おうとする、という発想が出てきます。四つの部品に分けてあるからこそ、どこが弱っていて、どこを動かせるかを議論できます。
さらに、この式は後の章への入り口でもあります。消費 C は所得によってどう変わるのか、投資 I は金利によってどう動くのか、といったテーマは、それぞれこの四つの部品を深掘りしたものです。すべての出発点が、この一本の式にあります。
まとめ
最後に、式へ戻ります。
Y=C+I+G+NX を読み下すと、「国全体の生産(=所得)は、消費と投資と政府支出と純輸出を足し合わせたものに等しい」となります。
覚えておきたいのは、次の三点です。
- Y は「生産=所得=支出」という一つの金額を指します。
- 右辺は、その金額を四人の買い物(家計・企業・政府・海外)に分けたものです。
- 純輸出だけは、輸出から輸入を引いた差である点に注意します。
この式が体にしみ込むと、この先のマクロ経済の話がぐっと追いやすくなります。急がず、四つの部品の意味を一つずつ思い出せるようにしておけば十分です。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- この式は「そうなるはず」という予想ではなく、後から数え上げると必ず成り立つ会計上の関係(恒等式)です。
- 売れ残った商品は、企業が自分で買ったものとみなして投資Iに入れます。だから作った量と使った量は必ず一致します。
- 年金や生活保護は、配った段階ではGに入りません(受け取った人が買い物をすればCに入ります)。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 Y は生産であり、同時に所得であり、同時に支出でもある。
問2 経済学の I(投資)には、株を買うことも含まれる。
問3 NX(純輸出)は、輸出から輸入を引いた差である。
問4 年金や生活保護のような支出も、政府が払うお金なので G に含めるのがふつうである。
問5 NX で輸入を引くのは、輸入が国にとって損なことだからである。
○×の解説
問1 Y は生産であり、同時に所得であり、同時に支出でもある。
答え:○
そのとおりです。誰かが払ったお金は必ず誰かが受け取ったお金になるので、生産額・所得額・支出額は見る角度が違うだけの同じ一つの数になります。Yを「生産だけ」の意味に狭くとらえないようにします。
問2 経済学の I(投資)には、株を買うことも含まれる。
答え:×
含まれません。経済学の I は、工場・機械・店舗など新しく作られる設備のことです。株の売買はお金の持ち主が変わるだけで、新しいモノが作られないので入りません。
問3 NX(純輸出)は、輸出から輸入を引いた差である。
答え:○
そのとおりで、NX=輸出-輸入です。「純」は「差し引きした後の」という意味なので、輸出そのものではありません。純輸出がマイナスになる国もあります。
問4 年金や生活保護のような支出も、政府が払うお金なので G に含めるのがふつうである。
答え:×
含めないのがふつうです。G は政府がモノやサービスを買うための支出で、道路建設や公務員の給料などが入ります。年金や生活保護はお金を配るだけで、政府が何かを買っているわけではありません。
問5 NX で輸入を引くのは、輸入が国にとって損なことだからである。
答え:×
損だから引くのではありません。外国製品の代金は一度 C などに入っているので、外国で作られた分を国内生産の金額から取り除くための調整として引いています。
次に読む:S3-05「ISバランス」
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