Q.限界消費性向 b が「0.8」とは、どういう意味ですか。
A.所得が増えたとき、その増えた分のうち80パーセントを消費に回す、という意味です。たとえば所得が10万円増えたなら、消費は8万円増えます。残りの2万円は使われず、貯蓄に回ります。b は「増えた所得に対する、増えた消費の割合」であり、ふつう0と1の間の数になります。
まず、どこでつまずくのか
経済学の教科書には、とつぜん C=a+bY という式が出てきます。この式は「消費関数(consumption function)」と呼ばれます。多くの人が、ここで手が止まります。
つまずく理由は、大きく二つあります。
- 一つめは、C や a、b、Y という文字が、それぞれ何を指しているのか分からないことです。
- 二つめは、そもそもこの式が「何を言いたいのか」が見えないことです。
結論を先に言葉で言うと、この式が伝えたいのは一つだけです。所得が増えると消費も増える。ただし、増えた所得の一部だけが消費に回る。ここから、日常の場面でゆっくり確かめていきます。
身近な例で考える
ある人の毎月の手取りが、20万円だったとします。そのうち、家賃や食費や光熱費に使うお金があります。仮に、毎月16万円を使っていたとします。
ここで、給料が上がって手取りが25万円になったとします。5万円増えました。この5万円を、まるごと使いきるでしょうか。
多くの場合、そうはなりません。少し良い食事をしたり、服を買ったりして、たとえば4万円ぶん多く使う。残りの1万円は、使わずに貯金に回す。こうした行動はよくあります。
- 増えた所得は5万円。
- 増えた消費は4万円。
- 使わずに残した分は1万円。
ここで大事なのは、増えた所得(5万円)と、増えた消費(4万円)が、同じ額ではないことです。増えた分の一部だけが、消費に回っています。
「全部は使わない」という感覚
もう少し、この感覚を寝かせておきます。所得が増えたとき、その増えた分を全部使う人は、あまりいません。
理由はいろいろあります。将来が不安なので少し残しておく。大きな買い物のために貯めておく。なんとなく手元に置いておく。動機はさまざまですが、結果として増えた所得のうち一部は消費に回り、残りは貯蓄に回る、という形になります。
そして、増えた所得のうち「どれくらいの割合を消費に回すか」は、人や状況によって決まっています。さきほどの例では、増えた5万円のうち4万円を使いました。割合にすると、4万円 ÷ 5万円 で 0.8、つまり8割です。
この「増えた所得のうち、消費に回る割合」こそが、式の中の b の正体です。名前を付けると 限界消費性向(marginal propensity to consume)といいます。難しい名前ですが、中身は「増えた分のうち、使う割合」というだけのことです。
所得がゼロでも、消費はゼロにならない
もう一つ、確かめておきたいことがあります。もし、ある月の所得がまったくゼロだったら、消費もゼロになるでしょうか。
なりません。所得がなくても、食べなければ生きていけません。家賃も必要です。貯金を取りくずしたり、誰かに助けてもらったりして、最低限のお金は使います。
この「所得がゼロでも、どうしても必要になる消費」を 基礎消費(autonomous consumption)といいます。式の中の a が、これにあたります。
- a(基礎消費)… 所得に関係なく、必ず必要になる消費の土台。
- bY の部分… 所得が増えるにつれて、上に積み上がっていく消費。
つまり消費は、「土台の a」に「所得に応じて増える bY」を足したもの、と考えられます。
経済学ではこう使う
ここまでの話を、そのまま式にまとめたものが、ケインズ型消費関数です。ケインズ(John Maynard Keynes)は、この考え方を示した経済学者の名前です。
C = a + bY
読み下すと、次のようになります。「消費(C)は、所得がゼロでも必要な基礎消費(a)に、所得(Y)へ割合 b を掛けた分(bY)を足したものである」。
- C … 消費(consumption)。使うお金の合計。
- Y … 所得(income)。手に入るお金。
- a … 基礎消費。所得ゼロでも必要な、消費の土台。プラスの数です。
- b … 限界消費性向。増えた所得のうち、消費に回る割合。ふつう0と1の間の数です。
さきほどの例をあてはめてみます。基礎消費 a を仮に0円、限界消費性向 b を0.8とすると、消費は C=0.8Y と書けます。所得20万円なら消費は16万円、所得25万円なら消費は20万円。増えた所得5万円に対して、消費は4万円増える、という関係が式で表せます。(計算を単純にするため、ここでは a を0円とおきました。実際の消費関数では a はプラスの数なので、グラフは原点ではなく縦軸の a の高さから始まります。)
グラフにすると、この式は右上がりの直線になります。所得が増えれば消費も増えるので、線は右上がりです。ただし傾き b は1より小さいので、線の上がり方は「所得をそのまま全部使う場合」よりゆるやかになります。図をあわせて見ると、この形がつかみやすくなります。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- C=a+bY の b(限界消費性向)が一定、というのは話を単純にするための仮定です。
- 実際に消費を左右するのは、税を引いたあとの手取り(可処分所得)です。
- 基礎消費aは「最低限の生活費」というより、所得に左右されない消費のこと。貯金の取り崩しや借入れでまかなわれます。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 限界消費性向 b が0.8のとき、所得が10万円増えると消費も10万円増える。
問2 限界消費性向とは、増えた所得のうち消費に回る割合のことである。
問3 限界消費性向 b は、消費全体を所得全体で割った割合のことである。
問4 所得がゼロになれば消費もゼロになるので、消費関数のグラフは原点から始まる。
問5 限界消費性向 b は、ふつう0と1の間の数になる。
○×の解説
問1 限界消費性向 b が0.8のとき、所得が10万円増えると消費も10万円増える。
答え:×
増えるのは8万円です。b=0.8は、増えた所得のうち80パーセントを消費に回すという意味だからです。残りの2万円は使われず、貯蓄に回ります。
問2 限界消費性向とは、増えた所得のうち消費に回る割合のことである。
答え:○
名前は難しいですが、中身は「増えた分のうち、使う割合」というだけです。5万円増えて4万円使ったなら、4÷5で0.8になります。式 C=a+bY の b がこれにあたります。
問3 限界消費性向 b は、消費全体を所得全体で割った割合のことである。
答え:×
b は増えた所得に対する、増えた消費の割合です。消費全体を所得全体で割ったものとは別の考え方なので、混同しないようにします。見るのはあくまで「増えた分どうし」です。
問4 所得がゼロになれば消費もゼロになるので、消費関数のグラフは原点から始まる。
答え:×
所得がゼロでも、食費や家賃など最低限の消費は必要です。これを基礎消費といい、式の a にあたります。a があるので、直線は原点ではなく縦軸の少し上から始まります。
問5 限界消費性向 b は、ふつう0と1の間の数になる。
答え:○
増えた所得の一部を使うのですから、割合は0より大きく、全部(1)より小さくなります。だからグラフの傾きは1より小さく、所得をそのまま全部使う場合よりゆるやかな上がり方になります。
次に読む:S3-07「恒常所得仮説」
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