Q.2期間モデルでは、なぜ貯蓄や借入を考えるのですか。
A.お金を使う「タイミング」を動かすためです。今年の所得をすべて今年使う必要はありません。残せば来年に回せますし(貯蓄)、足りなければ来年の所得を前借りできます(借入)。2期間モデルは、この時点をまたいだお金の移動を、今年の消費と来年の消費という2つの選択として整理します。そして、どの組み合わせがいちばん満足できるかを、予算制約線と無差別曲線で探します。
まず、どこでつまずくのか
「今年の所得は今年使い切るもの」。多くの人は、そう考えがちです。給料が入ったら、その月の中でやりくりする感覚です。
でも実際には、お金を使うタイミングは動かせます。余ったぶんは来年に回せます。足りなければ、来年の収入をあてにして先に使うこともできます。
ここでつまずきやすいのは、「お金を稼ぐ時点」と「お金を使う時点」は同じでなくてよい、という点です。この2つを分けて考えるのが、これから学ぶ「2期間モデル(two-period model)」の出発点です。
もう一つのつまずきは、図の軸です。ふつうのグラフは「リンゴの数とその値段」のように別々のものを並べます。ところがこのモデルの軸は、両方とも「消費」です。ただし片方は今年、もう片方は来年。同じ消費を、時点でわけて縦横に並べているのだと分かると、一気に読みやすくなります。
身近な例で考える
ある人が、今年100万円、来年も100万円を受け取るとします。話を分かりやすくするため、まず利子(りし。お金を貸し借りしたときに付く上乗せ分)はゼロだと考えてみます。
この人は、今年100万円ぶんを使ってもかまいません。でも、そうしなくてもよいのです。
- 今年80万円だけ使い、20万円を残す。すると来年は120万円使えます。これが貯蓄(ちょちく、saving)です。
- 今年120万円使いたい。でも手元は100万円。足りない20万円を借りて先に使う。来年の所得から返すので、来年は80万円になります。これが借入(かりいれ、borrowing)です。
つまり、貯蓄も借入も、やっていることは同じです。消費するタイミングを、今年と来年の間で移し替えているだけなのです。貯蓄は「今年の消費を来年へ送る」、借入は「来年の消費を今年へ引き寄せる」。方向が違うだけです。
利子が入るとどう変わるか
次に、現実に近づけて利子を入れます。銀行に預けると利子がつき、借りると利子を付けて返します。この割合を利子率(りしりつ、interest rate)と呼び、記号ではrで表します。たとえばr=0.05なら5パーセントです。
利子率が5パーセントのとき、今年の20万円を貯蓄すると、来年は21万円になって返ってきます。20万円 × 1.05 = 21万円、という読み下しです。今年20万円をがまんしたごほうびとして、来年は1万円の利子が上乗せされる、というわけです。
逆に今年20万円を借りると、来年は21万円を返すことになります。先に使える代わりに、来年の消費が1万円ぶん多く減ります。
ここから大事な感覚が生まれます。今年の1円と来年の1円は、同じ価値ではありません。今年の1円は、貯めれば来年(1+r)円になれる。だから今年のお金のほうが少しだけ「重い」のです。この重みの違いが、次に出てくる予算制約線の傾きになります。
予算制約線 — 使える組み合わせの範囲
ここで、選べる消費の組み合わせを一枚の図にまとめます。横軸を「今年の消費」、縦軸を「来年の消費」とします。両方とも消費ですが、時点が違います。
この人が選べる「今年の消費と来年の消費の組み合わせ」を線で結ぶと、右下がりの直線になります。これを予算制約線(よさんせいやくせん、budget constraint line)と呼びます。予算、つまり使えるお金の上限を示す線です。
この線には、次の性質があります。
- 右下がりです。今年たくさん使えば、来年に回せる分は減るからです。片方を増やすと、もう片方は必ず減ります。
- 線の上のどの点も選べます。線より内側(左下)はお金を余らせている状態、線より外側(右上)は手が届かない状態です。
- 傾きは、マイナス(1+r)です。今年の消費を1円増やすと、来年の消費は(1+r)円ぶん減る、という意味です。利子率が高いほど、線は急になります。
線の上には特別な点が1つあります。もらった所得を、そのまま今年y1・来年y2として使う点です。貯蓄も借入もしていない「出発点」で、初期保有点と呼びます。ここから右へ動けば借入、左へ動けば貯蓄です。
経済学ではこう使う — 無差別曲線で最適点を選ぶ
予算制約線は「選べる範囲」を教えてくれます。でも、その中のどこがいちばん良いかは、まだ分かりません。それを決めるのが、好みを表す線です。
人には、消費のしかたへの好みがあります。ふつうは、今年も来年もそこそこ使えるほうがうれしいものです。今年だけたっぷりで来年ゼロ、というのは落ち着きません。この「同じくらいの満足になる組み合わせ」を結んだ線を無差別曲線(むさべつきょくせん、indifference curve)と呼びます。どの点も満足度が同じ、つまり選ぶのに差がない線です。
無差別曲線は、原点に向かってふくらんだ形をしています。そして右上にあるものほど、満足度が高くなります。今年も来年もたくさん使えるからです。
そこで人は、予算制約線の上で、できるだけ右上の無差別曲線に届く点を選びます。図で言うと、予算制約線と無差別曲線がちょうど接する点です。ここが、選べる範囲の中でいちばん満足できる組み合わせ、すなわち最適な消費です。
この接する点が初期保有点より右下にあれば、その人は今年多めに使う人、つまり借入をする人です。左上にあれば、今年をがまんして貯蓄する人です。同じ所得でも、好みしだいで選び方は変わります。
まとめ
2期間モデルは、次の順で読むと迷いません。
- 人は所得を、今年の消費と来年の消費に振り分けます。
- 貯蓄と借入を使えば、消費するタイミングを時点をまたいで動かせます。
- 選べる組み合わせは、右下がりの予算制約線で表されます。傾きはマイナス(1+利子率)です。
- 好みは無差別曲線で表され、右上ほど満足度が高くなります。
- 両者が接する点が、いちばん満足できる最適な消費です。
このモデルは、貯蓄や年金、借金の判断など、時間をまたぐお金の話を考える土台になります。まずは「稼ぐ時点」と「使う時点」を切り離す、という感覚を持っておくと、この先の章がぐっと分かりやすくなります。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- 借りるときも貸すときも同じ金利で、必要なだけ自由に借りられる、と仮定しています。
- 実際には借りられる額に限りがあるため、予算線上のどこでも選べるとは限りません。
- 金利が上がったとき貯蓄が増えるかどうかは、その人が借り手か貸し手かによっても変わります。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 貯蓄も借入も、消費するタイミングを今年と来年の間で移し替える手段である。
問2 2期間モデルでは、貯蓄は良いこと、借入は悪いこととして評価される。
問3 利子率がプラスであっても、今年の1円と来年の1円の価値は同じである。
問4 予算制約線の上にある点なら、どこを選んでも同じように最適である。
問5 2期間モデルの図は、横軸も縦軸も消費であり、所得は初期保有点として線の上の1点に表れる。
○×の解説
問1 貯蓄も借入も、消費するタイミングを今年と来年の間で移し替える手段である。
答え:○
貯蓄は今年の消費を来年へ送り、借入は来年の消費を今年へ引き寄せます。方向が違うだけで、やっていることは同じです。
問2 2期間モデルでは、貯蓄は良いこと、借入は悪いこととして評価される。
答え:×
このモデルでは良い悪いの話はしません。今年たっぷり使いたい人には借入のほうが満足度が高いこともあり、大事なのはその人の好みに合っているかです。
問3 利子率がプラスであっても、今年の1円と来年の1円の価値は同じである。
答え:×
今年の1円は貯めれば来年(1+r)円になれるので、今年のお金のほうが価値が重いといえます。この重みの違いが、予算制約線の傾きになります。
問4 予算制約線の上にある点なら、どこを選んでも同じように最適である。
答え:×
線の上はすべて「選べる」点ですが、「いちばん良い」点は1つだけです。無差別曲線と接する点以外は、同じ予算でもっと満足できる組み合わせを見のがしています。
問5 2期間モデルの図は、横軸も縦軸も消費であり、所得は初期保有点として線の上の1点に表れる。
答え:○
片方は今年の消費、もう片方は来年の消費で、同じ消費を時点で分けて並べています。所得そのものが軸になるわけではありません。
次に読む:S3-09「リカードの等価定理」
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