Q.LM曲線はなぜ右上がりなのですか。
A.所得が増えると、支払いのために手元に置きたいお金の量が増えます。世の中に出回るお金の量が一定だと、限られたお金の取り合いになり、その値段にあたる利子率が上がります。つまり所得が大きいほど利子率も高くなります。この「所得(横軸)と利子率(縦軸)」の組み合わせを線でつないだものがLM曲線で、右上がりになります。
まず、どこでつまずくのか
LM曲線は、名前だけでは何を表す線か分かりません。分かりにくくなる理由は、主に3つあります。
- 「LM」という記号が何の略か分からず、意味が頭に入らない。
- 「貨幣市場」「利子率」という言葉が、日常の感覚とつながらない。
- グラフの線が「なぜ右上がりなのか」を、丸暗記で済ませてしまう。
この記事では、記号やグラフを急がず、まず身近なお財布の話から始めます。お金をどれだけ手元に置きたいか、という感覚さえつかめれば、線が右上がりになる理由は自然に見えてきます。
なお「LM」は、後の節であらためて説明します。今は名前を覚える必要はありません。
身近な例で考える:なぜお金を手元に置くのか
ここに、ある人の1か月の暮らしを思い浮かべます。給料が入っても、その全部をすぐ貯金や投資に回すわけではありません。
食費、電車代、急な買い物。こうした支払いのために、いくらかはすぐ使えるお金を手元に置いておきます。財布の中の現金や、銀行口座の残高です。
ここで大事な感覚が1つあります。手元にお金を置くと安心して支払えますが、その代わり損もしています。もしそのお金を定期預金や債券に回していれば、利子(利息)がついたはずだからです。
つまり、お金を手元に置くことには見えないコストがあります。そのコストの大きさが利子率です。利子率が高いほど、「手元に眠らせるのはもったいない」と感じます。逆に利子率が低ければ、気楽に手元へ置いておけます。
所得が増えると、必要なお金も増える
次に、暮らしぶりが豊かになった場面を考えます。給料が上がり、使えるお金全体、つまり所得が増えたとします。
すると買い物の回数も金額も増えます。外食が増え、まとめ買いも増えます。支払いの機会が多くなるほど、手元に置いておきたいお金の量も増えます。財布を薄いままにしておくと、いざという時に困るからです。
ここが第一の柱です。所得が増えると、支払いのために手元へ置きたいお金の量が増えます。この「手元に置きたいお金の量」を、経済学では貨幣需要(money demand)と呼びます。世の中の人々が合わせて、どれだけお金を手元に持ちたいか、という総量です。
まとめると、所得が増える → 貨幣需要が増える、という関係です。
お金の量が一定なら、利子率が動く
ここでもう1つの条件を置きます。世の中に出回っているお金の総量、これを貨幣供給(money supply)と呼びますが、この量は当面変わらないとします。日本銀行のような中央銀行が決める量で、簡単には増えないからです。
すると、こういう状況が生まれます。みんなが手元に置きたいお金は増えたのに、世の中のお金の量は増えていません。限られたお金を、多くの人が欲しがる状態です。
欲しい人が増えて量が変わらなければ、その「値段」が上がります。お金を借りたり手元に確保したりする値段、それが利子率です。だから所得が増えると、利子率が上がります。
身近に言い換えます。席の数が同じ人気店に、来店客だけが増えれば、行列や予約の取りにくさが増します。この「取りにくさ」にあたるのが、利子率の上昇です。
経済学ではこう使う:だからLM曲線は右上がり
これまでの流れを一本につなぎます。所得が増える → 手元に置きたいお金(貨幣需要)が増える → お金の量は一定 → 取り合いで利子率が上がる。この順番です。
つまり所得が大きいほど、利子率も高いという関係になります。これをグラフにします。横軸に国民所得Y、縦軸に利子率iをとります。「Yが大きいほどiも高い」ので、線は左下から右上へ伸びます。これが右上がりの理由です。
この線をLM曲線と呼びます。LMは、貨幣需要(Liquidity=流動性、手元に置きたい度合い)と貨幣供給(Money)がちょうど釣り合う点を集めた線、という意味です。線の上のどの点でも、お金を「置きたい量」と「出回っている量」が一致しています。この釣り合いを貨幣市場の均衡と呼びます。
言葉で1点ずつ確かめます。図の点Aは、所得Y1が小さく、必要なお金も少ないので、利子率i1は低い状態です。点Bは、所得Y2が大きく、必要なお金も多いので、利子率i2は高い状態です。AからBへ、右へ進むほど上へ上がる。だから右上がりです。
お金の量が変わると線ごと動く(シフト)
ここまでは「お金の量は一定」で考えました。では、中央銀行がお金の量を増やしたら、どうなるでしょうか。金融緩和と呼ばれる動きです。
お金が世の中に増えると、取り合いがゆるみます。同じ所得の水準でも、以前より低い利子率で釣り合うようになります。これは線の上を動くのではなく、線そのものが右(または下)へずれる動きです。これをシフトと呼びます。
逆に、お金の量を減らせば、取り合いは激しくなり、線は左(上)へずれます。ここで区別が大切です。
- 所得が変わったときは、同じLM曲線の上を、点が右上や左下へ移動する。
- お金の量が変わったときは、LM曲線そのものが左右にずれる。
この2つを混同しないことが、後の学習で効いてきます。
なお、LM曲線は貨幣市場のつり合いだけを描いた部品です。国全体の所得と利子率は、財市場を表すIS曲線と組み合わせ、2本の線の交点ではじめて決まります。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- 物価は動かないものとし、中央銀行が決めるお金の量は一定としています。
- LM曲線も時間の流れではなく、貨幣市場がつり合う利子率と所得の組合せです。
- 物価が下がったり、お金の量が増えたりすると、線そのものが右(下)へ動きます。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 所得が増えると、支払いのために手元に置きたいお金の量(貨幣需要)が増える。
問2 LM曲線では、利子率が上がることが先で、その結果として所得が増える。
問3 世の中に出回るお金の量が増えると、利子率は上がる。
問4 中央銀行がお金の量を変えたときは、LM曲線の上を点が右上や左下へ移動する。
問5 LM曲線はお金の世界の釣り合いだけを表すので、国全体の状態はIS曲線と組み合わせて初めて決まる。
○×の解説
問1 所得が増えると、支払いのために手元に置きたいお金の量(貨幣需要)が増える。
答え:○
買い物の回数も金額も増えるので、手元に置いておきたいお金も増えます。これがLM曲線の第一の柱です。
問2 LM曲線では、利子率が上がることが先で、その結果として所得が増える。
答え:×
順番が逆です。所得が増えることが先で、貨幣需要が増え、その結果として利子率が上がります。原因は所得の側にあります。
問3 世の中に出回るお金の量が増えると、利子率は上がる。
答え:×
逆です。お金が増えると取り合いがゆるみ、利子率は下がります。増えて利子率を上げるのは、お金ではなく「お金への需要」のほうです。
問4 中央銀行がお金の量を変えたときは、LM曲線の上を点が右上や左下へ移動する。
答え:×
お金の量が変わったときは、線そのものが左右にずれるシフトです。線上の移動が起きるのは、所得が変わったときです。
問5 LM曲線はお金の世界の釣り合いだけを表すので、国全体の状態はIS曲線と組み合わせて初めて決まる。
答え:○
LM曲線は、貨幣需要と貨幣供給が釣り合う点を集めた線にすぎません。景気の全体像を見るには、IS曲線という別の部品が必要です。
次に読む:S3-13「IS-LMで政策を見る」
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