Q.財政政策と金融政策で、利子率の動く向きが逆になるのはなぜですか。
A.財政政策はIS曲線を右へ動かします。お金の量そのものは増えないので、増えた取引をまかなうためにお金の奪い合いが起き、利子率は上がります。金融政策はLM曲線を右へ動かします。お金の量が増えるので、余ったお金が貸しに回り、利子率は下がります。同じ「所得が増える」政策でも、お金の量を増やすかどうかが違うため、利子率の向きが逆になります。
まず、どこでつまずくのか
IS-LM図には線が2本あります。IS曲線とLM曲線です。この図で多くの人がつまずく点は、はっきりしています。
- 政策を打つと「どちらの線」が動くのか、迷います。
- その線が「右か左か」、どちらへ動くのか迷います。
- 結果として、国民所得と利子率が「上がるのか下がるのか」で混乱します。
じつは、覚えることは多くありません。財政政策はIS曲線を右へ、金融政策はLM曲線を右へ動かします。これだけです。
大切なのは、丸暗記ではありません。「なぜそちらへ動くのか」を、言葉でたどることです。まずは身近な場面から考えていきます。
身近な例で考える
2つの政策を、まちの様子でイメージしてみます。
1つ目は、政府が自分でお金を使う場合です。たとえば政府が新しい道路を作るとします。工事の会社に代金が支払われます。働く人に給料が入ります。まちにお金が回り始めます。これが財政政策(fiscal policy)のイメージです。政府支出を増やす、というのがその中心です。
2つ目は、世の中に出回るお金の量そのものを増やす場合です。銀行が貸し出せるお金がふえるように、日本銀行が手を打ちます。お金が借りやすくなります。これが金融政策(monetary policy)のイメージです。貨幣供給を増やす、というのがその中心です。
ここで大事な違いがあります。財政政策は「政府が使う」話です。金融政策は「お金の量をふやす」話です。使うのか、量をふやすのか。この違いが、あとで効き方の差になって表れます。
IS曲線とLM曲線をひとことで復習
図に入る前に、2本の線の意味を短く思い出します。横軸は国民所得Y(Yは一国全体で新しく生み出された価値の合計。給料・利益・利子・地代として分けられます)、縦軸は利子率i(iはお金を借りる値段)です。
IS曲線は、右下がりの線です。利子率が下がると、企業は借りて投資しやすくなります。投資がふえると、まちにお金が回り、国民所得もふえます。だから利子率が低いほど所得は大きい、という右下がりになります。
LM曲線は、右上がりの線です。国民所得がふえると、買い物や取引がふえます。すると手元に置きたいお金がふえます。お金の量は決まっているので、お金の奪い合いになり、利子率が上がります。だから所得が大きいほど利子率も高い、という右上がりになります。
この2本が交わる点が、いまの経済の落ち着き先です。ここでは、その交点を出発点E0と呼びます。
経済学ではこう使う(1)財政政策:IS曲線が右へ
まず財政政策を図で追います。政府支出をふやす場合です。
政府が道路工事にお金を使います。工事会社の売上がふえます。それが働く人の給料になり、その人たちの買い物になります。こうして国民所得Yがふえていきます。
ここで注目したい点があります。この所得の増え方は、利子率が高くても低くても起こります。政府が「自分で」お金を使うからです。同じ利子率のまま、所得だけが大きくなります。
図の上では、これはIS曲線が右へ動くことを意味します。同じ縦の高さ(同じ利子率)で、線が右(所得の大きいほう)へずれます。IS0からIS1へのシフトです。
すると交点はE0からE1へ移ります。ここで利子率も動きます。所得がふえたので、取引に使うお金がよけいに要ります。しかしお金の量はふえていません。お金の奪い合いが起き、利子率iは上がります。
- 国民所得Y … ふえる
- 利子率i … 上がる
経済学ではこう使う(2)金融政策:LM曲線が右へ
次に金融政策です。貨幣供給、つまり世の中に出回るお金の量をふやす場合です。
世の中に出回るお金がふえると、人々の手元にはお金が必要以上にたまります。余ったお金は、少しでも増やそうとして債券などの運用に向かいます。買い手がふえれば債券の値段は上がり、その裏返しとして利回り、つまり利子率iが下がります。
ここで注目したい点があります。この利子率の下がり方は、所得が同じでも起こります。お金の量そのものがふえたからです。同じ所得のまま、利子率だけが低くなります。
図の上では、これはLM曲線が右へ動くことを意味します。同じ縦の高さで見ると線が右へずれ、同じ所得で見ると線が下へずれます。LM0からLM1へのシフトです。
交点はE0からE1へ移ります。利子率が下がったので、企業は借りて投資しやすくなります。投資がふえ、まちにお金が回り、国民所得Yがふえます。
- 国民所得Y … ふえる
- 利子率i … 下がる
2つを並べて比べる
ここまでを並べると、違いがくっきりします。どちらも国民所得Yはふえます。違うのは利子率の向きです。
- 財政政策(IS曲線が右へ)… 所得はふえ、利子率は上がる。
- 金融政策(LM曲線が右へ)… 所得はふえ、利子率は下がる。
向きが逆になる理由は、お金の量にあります。財政政策はお金の量をふやしません。だから所得がふえた分だけお金が足りなくなり、利子率が上がります。金融政策はお金の量をふやします。だから利子率が下がり、その低い利子率が投資を通じて所得をふやします。
ひとつの覚え方があります。「政府が使う」ときは、動くのは需要の側なのでIS曲線です。「お金の量」を変えるときは、動くのはお金の側なのでLM曲線です。何を変える政策かを見れば、どちらの線が動くか見分けられます。
この節のまとめ
要点を短くまとめます。
- 財政政策(政府支出増)は、IS曲線を右へ動かします。所得はふえ、利子率は上がります。
- 金融政策(貨幣供給増)は、LM曲線を右へ動かします。所得はふえ、利子率は下がります。
- 両者の共通点は、国民所得Yがふえること。違いは、利子率の向きです。
- 違いの理由は、お金の量を変えるかどうかにあります。
図とあわせて、線が動く理由を一本ずつ言葉で追えるようにしておくと、応用の問題でも迷いにくくなります。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- 閉鎖経済・物価固定という、いちばん単純なIS-LMの世界での結論です。
- 財政政策にはISを動かすもの(政府支出を増やす・減税する)、金融政策にはLMを動かすものが含まれます。
- 海外とのやりとりや物価の変動を入れると、効き方は変わります。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 政府支出を増やす財政政策では、LM曲線が右へ動く。
問2 金融政策で貨幣供給を増やすとLM曲線が右へ動き、国民所得は増え、利子率は下がる。
問3 金融緩和でお金の量が増えると、利子率は上がる。
問4 財政政策も金融政策も、どちらも国民所得Yを増やす方向に働く。
問5 曲線を動かしたあとの所得と利子率は、新しい交点を見なくても読み取れる。
○×の解説
問1 政府支出を増やす財政政策では、LM曲線が右へ動く。
答え:×
動くのはIS曲線です。政府支出はお金の量を変えないので、LM曲線はそのままです。「この政策はお金の量を変えるか」を自問すると、どちらの線が動くか見分けられます。
問2 金融政策で貨幣供給を増やすとLM曲線が右へ動き、国民所得は増え、利子率は下がる。
答え:○
そのとおりです。お金の量が増えると、余ったお金が債券などの運用に向かい、債券の値段が上がる裏返しとして利子率iは下がります。その低い利子率が投資を通じて国民所得Yを増やします。
問3 金融緩和でお金の量が増えると、利子率は上がる。
答え:×
逆で、下がります。利子率が上がるのは財政政策のほうで、所得が増えた分だけお金が足りなくなり、お金の奪い合いが起きるからです。この2つを混ぜないよう注意します。
問4 財政政策も金融政策も、どちらも国民所得Yを増やす方向に働く。
答え:○
そのとおりです。どちらもYは増えます。違うのは利子率の向きで、財政政策では上がり、金融政策では下がります。
問5 曲線を動かしたあとの所得と利子率は、新しい交点を見なくても読み取れる。
答え:×
所得と利子率は、あくまで新しい交点で読み取ります。線を動かしたら、必ず出発点E0からどこへ移ったかを確かめる手順を踏みます。
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