クラウディングアウト:政府支出が民間投資を押しのけるしくみ

マクロ S3-14 クラウディングアウト のアイキャッチ マクロ経済学

Q.クラウディングアウトとは何ですか。

A.政府支出を増やすと利子率が上がり、その結果、企業などの民間投資が減ってしまう現象です。政府の支出が民間の支出を「押しのける」ように見えるため、こう呼ばれます。IS-LM図では、IS曲線を右にシフトさせても、LM曲線に沿って利子率が上がるため、所得の増加が一部打ち消されます。

⭐ 重要度:A / 出題頻度:B

📘 テキスト対応:第13章 13-4(クラウディングアウト)

📗 前提記事S3-13「政策のシフト」

⏱ 読了目安:9分

まず、どこでつまずくのか

政府がお金をたくさん使えば、世の中は元気になりそうです。道路を作れば仕事が生まれます。給付をすれば買い物が増えます。だから景気は良くなる、と考えるのは自然です。

ところが経済学には、少し意外な話が出てきます。政府がお金を使うと、逆に企業のお金の使い方が減ることがある、という話です。ここが、つまずきやすいところです。

つまずく理由は、はっきりしています。「政府が増やす」ことばかりを見て、「その裏で何かが減る」ことを見落とすからです。この記事では、その減る側に光を当てます。

もう一つの難所は、なぜ減るのかという道すじです。減る犯人は利子率、つまりお金を借りるときの利息の高さです。政府支出と利子率がどうつながるのか。そこを一本ずつたどっていきます。

身近な例で考える

まず、街に一つだけ大きな貯金箱があると想像してみます。この貯金箱には、みんなの貯めたお金が集まっています。お金を借りたい人は、ここから借ります。

貯金箱の中身は、無限ではありません。限りがあります。借りたい人が増えれば、取り合いになります。取り合いになれば、借りる値段、つまり利息は上がります。

ここに、大きな借り手が新しく現れたとします。政府です。政府が「工事のためにお金を借りたい」と言って、たくさん借り始めます。

すると貯金箱の残りは少なくなります。お金の取り合いが強まります。利息が上がります。すると、これまで借りようとしていた小さなお店や工場は、こう考えます。「利息が高いなら、今回は借りるのをやめておこう」。

こうして、政府が借りたぶんだけ、民間がお金を借りにくくなります。政府の支出が、民間の支出を押しのけたわけです。この押しのけを、経済学ではクラウディングアウト(crowding out、混雑して締め出すという意味)と呼びます。

利子率 iY E0 E1 実際のY 本来ここまで届く 押しのけ IS右シフト(財政拡大) IS1IS2i0i1
図 財政拡大でISが右へ動くが利子率が上がるため、所得の増加は『本来ここまで』より小さい(押しのけ=クラウディングアウト)

政府支出が増えると、順番に何が起きるか

身近な例を、少していねいな順番に並べ直してみます。急がず、一段ずつ進みます。

  • 第一に、政府が支出を増やします。工事や給付でお金を使います。
  • 第二に、仕事や所得が増えます。工事の会社が儲かり、働く人の給料も増えます。
  • 第三に、所得が増えると、人々はより多くのお金を手元に置きたくなります。買い物が増えるので、財布の中の現金を厚くしたくなるのです。
  • 第四に、手元のお金を求める人が増えると、お金は「貴重なもの」になります。貴重なお金を貸してもらうには、高い利息を払う必要が出てきます。こうして利子率が上がります
  • 第五に、利子率が上がると、借りて設備を買おうとしていた企業がためらいます。民間投資が減ります

この最後の「民間投資が減る」が、クラウディングアウトの正体です。政府が増やした支出の効果は、この分だけ小さくなります。

経済学ではこう使う(IS-LMで見る)

ここからは、経済学の道具であるIS-LM分析(アイエス・エルエム、IS-LM)を使います。難しく見えますが、やることは一つです。所得と利子率の関係を、2本の線で表すだけです。

図の約束を決めます。横軸は国民所得Y(Yは所得の量)、縦軸は利子率i(iは利息の高さ)とします。この記事の図はすべてこの向きです。

IS曲線は、右下がりの線です。利子率が低いほど、企業は借りて投資しやすく、所得が増える、という関係を表します。利子率が下がると所得が増えるので、右下がりになります。

LM曲線は、右上がりの線です。所得が増えると、人々がお金を手元に置きたがり、利子率が上がる、という関係を表します。所得が増えると利子率も上がるので、右上がりになります。

この2本が交わる点が、いまの経済の状態です。所得と利子率が同時に決まる場所、と考えれば十分です。

図で追う:利子率が所得を打ち消す

では、政府支出を増やしてみます。図の上での動きを、言葉でゆっくり追います。

政府支出が増えると、同じ利子率でも所得は増えます。つまりIS曲線が右にシフトします。図でも、ISの線が右へ動きます。

もし利子率がまったく動かないなら、話は簡単です。所得は、右に動いた分だけまるごと増えます。図の「本来ここまで届く」と書かれた位置まで、所得が届くはずです。

しかし、利子率は動きます。ここがカギです。所得が増える途中で、お金を手元に置きたい人が増え、利子率が上がっていきます。この上がり方を決めているのが、右上がりのLM曲線です。

経済は、IS曲線が右に動いても、LM曲線から離れられません。だから新しい状態は、IS2とLMが交わる点E1に落ち着きます。ここでは利子率がi0からi1へ上がっています。

利子率が上がったせいで、企業の投資が減ります。その結果、所得は「本来ここまで届く」位置には届かず、その手前(新しい均衡E1)で止まります。この届かなかった差が、図の「押しのけ」にあたる分です。これがクラウディングアウトを図で見た姿です。

どのくらい打ち消されるのか

押しのけられる大きさは、いつも同じではありません。LM曲線の傾きによって変わります。ここは初学者が見落としやすいところです。

  • LM曲線が急な(立った)形のとき。所得が少し増えるだけで利子率が大きく上がります。投資が強く減るので、クラウディングアウトは大きくなります。政府支出の効果は小さくなります。
  • LM曲線がゆるやかな(寝た)形のとき。所得が増えても利子率はあまり上がりません。投資はあまり減らないので、クラウディングアウトは小さくなります。政府支出の効果は大きく残ります。

つまり、政府支出が効くか効かないかは、そのときの経済の状態しだいです。「必ず全部打ち消される」わけでも、「まったく打ち消されない」わけでもありません。

極端な場合として、利子率がほとんど動かない状況では、押しのけはほぼ起きません。逆に、お金がすでにぎりぎりまで使われている状況では、押しのけが強く出ます。

※ この説明が成り立つ前提

ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。

  • ここで説明した「利子率が上がって投資が減る」という道すじは、IS-LMでの見方です。政府と企業が限られた貯蓄を奪い合う、という別の説明の仕方もあります。
  • LM曲線が寝ているとき(流動性の罠に近いとき)や、中央銀行が同時に金融緩和をするときは、押しのけは小さくなります。
  • 開放経済では、通貨高によって輸出が減るという別の押しのけも起こります。

○×で確認

ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。

問1 クラウディングアウトで押しのけられて減るのは、政府の支出である。

問2 政府支出が増えると利子率が上がり、その結果として民間投資が減る。

問3 クラウディングアウトが起きると、政府支出を増やしても所得はまったく増えない。

問4 IS曲線が右にシフトすると、経済はその真横の点へ移動する。

問5 LM曲線が急な形のときほど、クラウディングアウトは大きくなる。

○×の解説

問1 クラウディングアウトで押しのけられて減るのは、政府の支出である。

答え:×

減るのは民間の投資です。政府支出はむしろ増えており、押しのけられる側が民間だからこそ「押しのけ」と呼ばれます。

問2 政府支出が増えると利子率が上がり、その結果として民間投資が減る。

答え:○

そのとおりです。所得が増えると人々が手元にお金を置きたがり、お金が貴重になって利子率が上がります。すると借りて設備を買おうとしていた企業がためらうため、投資が減ります。

問3 クラウディングアウトが起きると、政府支出を増やしても所得はまったく増えない。

答え:×

打ち消されるのは一部です。所得は新しい均衡E1まで増えており、もとのE0より右にあります。ゼロになるわけではありません。

問4 IS曲線が右にシフトすると、経済はその真横の点へ移動する。

答え:×

経済はLM曲線から離れられないので、IS2上の真横の点ではなく、LMとの交点E1に落ち着きます。その途中で利子率が上がるため、所得は「本来ここまで届く」位置に届きません。

問5 LM曲線が急な形のときほど、クラウディングアウトは大きくなる。

答え:○

そのとおりです。LMが急だと所得が少し増えるだけで利子率が大きく上がるため、投資が強く減ります。逆にLMがゆるやかなときは押しのけが小さく、政府支出の効果は大きく残ります。


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