Q.不況で会社が苦しくても、賃金がすぐには下がらないのはなぜですか?
A.賃金は契約で決まっていて、下げると士気(やる気)が大きく下がるため、企業も簡単には下げられません(名目賃金の下方硬直性)。賃金が下がりきらないので、調整は雇用の削減=失業に回ります。
身近な例で考える
野菜の値段は、不作なら上がり豊作なら下がり、日々スッと動きます。ところがあなたの給料は、会社が少し苦しくなったからといって、来月から2割カット……とはなりません。賃金は物の値段とちがって下がりにくいのです。
なぜ下がりにくいのか
理由はいくつもあります。
- 契約で決まっている:賃金は年単位の契約や就業規則で固定され、途中で下げにくい。
- 士気(やる気)が下がる:賃下げは働く人のモチベーションと信頼を大きく損ない、かえって生産性が落ちる。
- 優秀な人が辞める:下げるとよい人材から出ていってしまう。
だから企業は、賃金を下げるより据え置くことを選びがちです。これを名目賃金の下方硬直性と言います。
硬直性が失業を生む
賃金が下がりきれば、理論上は全員が働ける水準まで調整されるはずです。ところが賃金が下がらないと、企業は人件費を減らすために人数のほうを減らす――つまり失業が生まれます。「賃金が硬直的だから不況で失業が出る」というのが、ケインズ経済学の重要な出発点です。
インフレによる“こっそり調整”
名目の賃金は下げにくくても、物価が上がれば実質的な賃金は下がります(同じ給料で買えるものが減る)。だから緩やかなインフレは、賃金を直接カットせずに実質的な調整を進める働きがあります。硬直性の“逃げ道”です。
まとめ
名目賃金は契約と心理で下がりにくい(下方硬直性)。そのため不況の調整は失業に回る。ここがケインズの世界観の土台であり、緩やかなインフレが役立つ理由でもあります。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- 「賃金が下がりにくい」のは名目(金額表示)の賃金の話です。物価が上がれば、名目が同じでも実質の賃金は下がります。
- 賃金が完全に柔軟になっても、転職活動中の失業(摩擦的失業)などは残ります。
- 契約の更改時には名目賃金も見直されるため、長い期間では調整が進みます。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 会社の経営が苦しくなれば、賃金は野菜の値段と同じようにすぐ下がる。
問2 賃金が下がりにくい理由には、契約のしばりや、働く人のやる気への影響がある。
問3 賃金が下がりきらないと、不況時の調整は人数の削減、つまり失業に向かいやすい。
問4 物価が上がっても、名目賃金が変わらなければ、実質的な賃金も変わらない。
問5 緩やかなインフレには、名目賃金を直接下げずに実質的な調整を進める働きがある。
○×の解説
問1 会社の経営が苦しくなれば、賃金は野菜の値段と同じようにすぐ下がる。
答え:×
賃金は契約で決まっており、下げると士気(やる気)を大きく損なうため、簡単には下がりません。これを名目賃金の下方硬直性と呼びます。
問2 賃金が下がりにくい理由には、契約のしばりや、働く人のやる気への影響がある。
答え:○
そのとおりです。賃下げは信頼とやる気を損ない、優秀な人から辞めていくため、企業は据え置きを選びがちです。
問3 賃金が下がりきらないと、不況時の調整は人数の削減、つまり失業に向かいやすい。
答え:○
そのとおりです。賃金という「価格」が動けないぶん、企業は「数量」=雇う人数のほうを減らします。これが硬直性と失業を結びつける道すじです。
問4 物価が上がっても、名目賃金が変わらなければ、実質的な賃金も変わらない。
答え:×
変わります。同じ給料で買えるものが減るので、実質的な賃金は下がります。名目と実質の区別がここで効いてきます。
問5 緩やかなインフレには、名目賃金を直接下げずに実質的な調整を進める働きがある。
答え:○
そのとおりです。名目賃金を据え置いたまま物価が上がれば、実質賃金はゆっくり調整されます。硬直性の“逃げ道”のひとつです。
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