財政赤字は何が問題なのか – 将来世代の負担と、景気を自動で支えるしくみ

マクロ S3-22 財政赤字の問題 のアイキャッチ マクロ経済学

Q.財政赤字は、いつでも減らすべきものなのですか。

A.いつでも減らすべき、とは言いきれません。不況のときは、あえて赤字を出して支出を増やし、景気を支える考え方もあるからです。実際、税収が減り給付が増えることで、赤字は不況で自然に大きくなります。これは景気を下支えする「自動安定化装置」の働きでもあります。問題になるのは、好況でも赤字が続き、借金が返す見通しのないまま積み上がっていく場合です。つまり「赤字そのもの」より「増え続けて止まらないこと」が論点になります。

⭐ 重要度:B / 出題頻度:C

📘 テキスト対応:第15章 15-2・15-3(財政赤字)

📗 前提記事:なし

⏱ 読了目安:9分

まず、どこでつまずくのか

「財政赤字(ざいせいあかじ、fiscal deficit)」という言葉は、ニュースでよく耳にします。「国の借金が過去最大」といった見出しもよく見かけます。ですが、これがなぜ「問題」なのかを説明しようとすると、意外とうまく言えません。ここが最初のつまずきどころです。

つまずく理由は、大きく3つあります。まず、国の話が大きすぎて、実感がわきません。次に、「借金=悪」というイメージだけが先に立ってしまいます。最後に、専門用語がいくつも重なって出てきます。

  • 財政赤字(国の家計が赤字になること)
  • 将来世代の負担(まだ生まれていない人への影響)
  • 金利上昇(お金を借りるときの利子が上がること)
  • 自動安定化装置(景気を自動で支えるしくみ)

この記事では、これらをいきなり定義せず、身近な例からゆっくり組み立てます。まず「赤字とは何か」をイメージで作り、それから「なぜ問題か」「どう役に立つか」の順で見ていきます。

身近な例で考える

ひと月の家計を思い浮かべてみます。給料などの収入が入ってきます。家賃や食費などの支出が出ていきます。収入より支出が多い月は、足りない分をどこかから借りて埋めます。この「足りなくて借りた分」が、家計でいう赤字です。

国も、同じ形で考えられます。国の収入の中心は税金です。国の支出は、年金や医療、道路づくり、教育などです。1年間で、税金などの収入より支出が多いと、その差を借金で埋めます。この差が「財政赤字」です。

ここで大事な区別があります。ある1年間だけの「足りない分」と、これまでの借金が積み上がった「合計」は別のものです。

  • 財政赤字…1年間の「足りない分」。いわば毎月の赤字。
  • 借金の残高…これまでの赤字が積み上がった合計。いわば借金の総額。

毎年少しずつ赤字を出すと、その分だけ借金の残高が増えていきます。財政赤字を「毎年の水の量」、借金の残高を「たまっていく水そうの水」と考えると、関係がつかみやすくなります。

財政赤字とは、どういう状態か

ここで、言葉をきちんと置いておきます。財政赤字とは、国のある1年間の支出が、税金などの収入を上回っている状態のことです。反対に、収入のほうが多ければ「財政黒字(ざいせいくろじ)」といいます。

国はこの足りない分を、主に国債(こくさい、government bond)を発行して借ります。国債とは、国が「あとで利子をつけて返します」と約束して発行する借用書のようなものです。これを銀行や個人などが買うことで、国にお金が入ります。

つまり財政赤字が続くと、国債という形の借金が積み上がっていきます。国は毎年、この借金に対する利子(りし)も払い続けなければなりません。ここまでが、問題を考えるための土台です。

なぜ問題なのか(将来世代の負担・金利上昇)

ここから「なぜ問題か」に入ります。よく挙げられる論点は2つです。将来世代の負担と、金利の上昇です。順に見ていきます。

1つめは、将来世代の負担です。国債は、いつか利子をつけて返す約束です。返すお金の出どころは、結局は将来の税金です。今の支出のために借りると、その返済は、これから働く人や、まだ生まれていない人に回ることがあります。今の世代がサービスを受け、将来の世代が返す。この時間のずれが「将来世代の負担」と呼ばれます。

2つめは、金利の上昇です。金利(きんり)とは、お金を借りるときにつく利子の割合です。国が国債をたくさん出して、お金をたくさん借りようとすると、貸し手を集めるために利子を高くする必要が出てきます。すると、世の中全体の金利も上がりやすくなります。

金利が上がると、次のような影響が考えられます。

  • 企業が工場や設備のためにお金を借りにくくなります。
  • その結果、投資が減り、景気が冷えることがあります。
  • 国自身も、利子の支払いが増えて、さらに苦しくなります。

このように「返す負担が将来に回る」ことと「金利が上がって経済に響く」ことが、財政赤字の主な問題点として語られます。ただし、これらがどれくらい強く出るかは、経済の状況によって変わります。いつでも同じ強さで起きる、とは言いきれません。

経済学ではこう使う(自動安定化装置)

ここまでは赤字の「困った面」でした。ですが経済学では、赤字が景気を助ける面にも注目します。その代表が自動安定化装置(じどうあんていかそうち)です。英語では built-in stabilizer(ビルトイン・スタビライザー)といい、「あらかじめ組み込まれた安定装置」という意味です。

まず、身近なイメージから入ります。エアコンの自動運転を思い浮かべてみます。部屋が暑くなると自動で冷やし、寒くなると自動で暖めます。人がその都度スイッチを操作しなくても、温度が自動で一定に近づきます。経済にも、これと似たしくみが組み込まれています。

景気が悪くなる場面を考えます。仕事が減り、人々の所得が下がります。このとき、2つのことが自動的に起きます。

  • 税収が減ります。所得が下がると、所得にかかる税金が自然に少なくなります。手元に残るお金が減りすぎず、消費の落ち込みがやわらぎます。
  • 給付が増えます。失業した人への手当など、決まったしくみでお金が支払われます。所得を失った人の生活を支え、消費を下支えします。

この2つが働くと、景気が悪いときほど国の支出は増え、収入は減ります。つまり不況では、財政赤字が自然に大きくなります。そしてその赤字が、人々の手元にお金を残し、景気の落ち込みを和らげます。政治家が新しく決定しなくても、制度が自動で動くのが特徴です。

好況のときは、逆に働きます。所得が増えて税収が増え、失業も減って給付が減ります。すると景気の行きすぎを、自動で少し抑えます。このように、不況でも好況でも景気を穏やかにする方向に働くのが、自動安定化装置です。

※ この説明が成り立つ前提

ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。

  • 政府は家計とちがい、徴税権があり、借金を借り換えながら続けられるため、家計の借金のたとえはあくまで入口のイメージです。
  • 「将来世代の負担」の大きさは、国債を国内で保有しているか、税のゆがみ、支出の中身(将来に役立つ投資か)などで変わります。
  • 国債が増えると必ず金利が上がる、というわけではありません。金融政策や景気の状況にもよります。
  • 財政の健全さは、借金の総額そのものより経済の規模(GDP)との比率や利払いの負担で見るのがふつうです。

○×で確認

ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。

問1 財政赤字はどんな状況でも減らすべきで、あえて出してよい場面はない。

問2 財政赤字とは、国のある1年間の支出が、税金などの収入を上回っている状態のことである。

問3 1年間の財政赤字と、これまでの借金が積み上がった残高は、同じものである。

問4 不況になると税収が減り給付が増えるため、財政赤字は自然に大きくなる。

問5 自動安定化装置とは、景気を見て政府がその都度あらたに予算を組む対策のことである。

○×の解説

問1 財政赤字はどんな状況でも減らすべきで、あえて出してよい場面はない。

答え:×

言いきれません。不況のときは、あえて赤字を出して支出を増やし、景気を支える考え方もあります。問題になるのは赤字そのものより、好況でも減らずに増え続けることです。

問2 財政赤字とは、国のある1年間の支出が、税金などの収入を上回っている状態のことである。

答え:○

そのとおりです。反対に収入のほうが多ければ財政黒字です。国はこの足りない分を、主に国債を発行して借ります。

問3 1年間の財政赤字と、これまでの借金が積み上がった残高は、同じものである。

答え:×

別のものです。財政赤字は1年間の足りない分、残高はそれが積み上がった合計です。赤字がゼロになっても、これまでの残高は残ります。

問4 不況になると税収が減り給付が増えるため、財政赤字は自然に大きくなる。

答え:○

そのとおりです。所得が下がれば税金は自然に少なくなり、失業手当などの給付は決まった仕組みで支払われます。この2つが人々の手元にお金を残し、景気の落ち込みを和らげます。これが自動安定化装置の働きです。

問5 自動安定化装置とは、景気を見て政府がその都度あらたに予算を組む対策のことである。

答え:×

違います。自動安定化装置は制度として最初から組み込まれ、自動で働くしくみです。政治家が新しく決定しなくても動く点が、その都度の景気対策との違いです。


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