Q.購買力平価があるのに、実際の為替レートがそれと食い違うのはなぜですか。
A.購買力平価は「長期の目安」だからです。短い期間では、お金の動きや人々の思惑で為替レートは大きく動きます。日々のレートは目安から離れて上下します。ただ、何年もかけて見ると、目安に近づく力が働くと考えられています。ですから食い違い自体は普通のことです。購買力平価は「今日のレート予想」ではなく「長い目で見た方向感」を示すもの、と理解すると誤解が減ります。
まず、どこでつまずくのか
「為替(かわせ)」は、日常ではあまり使わない言葉です。円高・円安、そして日々変わるレート。ニュースでは毎日その数字が読み上げられます。
購買力平価(purchasing power parity)は、この為替の話の一部です。名前が長くて、いかにも難しそうに見えます。ここで最初のつまずきが起きます。
もう一つのつまずきは、順番の勘違いです。多くの人は「レートが先に決まって、そのあと値段が決まる」と考えます。ところが購買力平価の発想は逆です。「値段のほうから、あるべきレートを考える」という順で進みます。
この記事では、その逆向きの考え方を、身近なものから順に組み立てます。用語は、イメージができてから登場させます。
身近な例で考える:同じものは同じ値段になるはず
まず、為替を忘れます。同じ町の中だけで考えます。
すぐ近くに、まったく同じペットボトルの水を売る店が二つあるとします。A店は100円、B店は150円です。品質も量も同じです。
この状態は長くは続きません。人はより安いA店で買おうとします。B店は客が減り、値段を下げます。A店は人気で少し値上げできます。やがて、二つの値段は近づいていきます。
ここで大事な考えを一つ、言葉にします。同じものなら、同じくらいの値段に落ち着くはず、という考えです。これを「一物一価(いちぶついっか)の法則」と呼びます。「一つの物には一つの価格」という意味です。
この考えを、国と国のあいだにまで広げます。すると、次の疑問が生まれます。「国が違えば、使うお金も違う。値段を、どうやって比べればよいのか」。ここで為替レートが登場します。
為替レートは「お金の交換比率」
為替レート(exchange rate)という言葉を、ここでかみ砕きます。むずかしく考える必要はありません。
これは、あるお金と別のお金を交換するときの比率です。たとえば「1ドル=150円」なら、1ドルと150円が同じ価値で交換できる、という意味です。
この比率を使うと、外国の値段を日本の感覚に直せます。ある商品がアメリカで2ドルなら、150円をかけて、日本の感覚では300円だと分かります。
ここまで来ると、一物一価の考えと為替がつながります。同じ商品なら、どの国で買っても同じ値段になるはず。もしそうなら、その「同じ値段になる」条件から、あるべき為替レートを逆に計算できます。
この、値段からあるべきレートを求める考え方こそが、購買力平価です。「購買力(こうばいりょく、=お金でものを買う力)が、どの国でも等しくなるようなレート」という意味です。
ビッグマックで考えると、ぐっと分かりやすい
難しい話を、身近な一品に置きかえてみます。ハンバーガーのビッグマックです。世界中の店で、ほぼ同じ大きさ、同じ中身で売られています。
ここでは、たとえ話として次の値段を使います(実際の値段ではありません)。日本では1個400円、アメリカでは1個5ドルだとします。
もし一物一価が成り立つなら、この二つは同じ価値のはずです。すると、次の関係が浮かびます。
- 日本の400円 = アメリカの5ドル
- この両方を5で割ると、80円 = 1ドル
ここで出た「1ドル=80円」が、ビッグマックから求めた購買力平価です。読み下すと「ビッグマック1個が同じ値段になるための、円とドルの交換比率」です。
実際の新聞などでは、この考えを世界の国ぶんまとめて「ビッグマック指数(Big Mac index)」と呼びます。同じ商品の値段を並べ、為替の目安を探すための、遊び心のある物差しです。
経済学ではこう使う:長期の為替の「目安」
ここが一番のポイントです。購買力平価は、明日のレートを当てる道具ではありません。長い目で見たときの、レートの落ち着き先の目安です。
さきほどの例で、購買力平価は「1ドル=80円」でした。ここで、実際の市場のレートが「1ドル=150円」だったとします。二つは大きく食い違っています。
この食い違いは、こう読み解けます。実際のレートで比べると、アメリカのビッグマックは日本より割高、日本のビッグマックは割安に見えます。同じ商品なのに、値段の力がそろっていない状態です。
一物一価の考えに従えば、こうした差は、長い時間をかけて縮まる方向に力が働くとされます。ですから経済学では、購買力平価を次のように使います。
- 今の為替が、長期の目安と比べて高すぎるか、安すぎるかを測る
- 物価の水準を、国どうしで公平に比べ直す(生活の豊かさの比較などに使う)
経済学では、購買力平価は「長期の為替の方向を考えるための理論」という位置づけになります。短期の動きではなく、長い目での方向感を示す理論、という位置づけを押さえておくと役立ちます。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- 購買力平価には、水準そのものを比べる考え方と、物価上昇率の差で為替の動きを見る考え方があります。
- 運べないサービス、輸送費、関税、品質の差があるため、現実には差が残ります。
- 長い目で見た目安であって、「必ずその水準に戻る」というものではありません。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 購買力平価とは、同じ商品がどの国でも同じ値段になるような、お金の交換比率のことである。
問2 日本でビッグマックが1個400円、アメリカで1個5ドルなら、購買力平価は1ドル=80円になる。
問3 購買力平価を使えば、明日の為替レートを当てることができる。
問4 実際の為替レートが購買力平価と食い違っていたら、その理論は間違いだと判断してよい。
問5 送料や関税、店の人件費、税の違いがあっても、国どうしの値段は完全に一致する。
○×の解説
問1 購買力平価とは、同じ商品がどの国でも同じ値段になるような、お金の交換比率のことである。
答え:○
一物一価の考えを国と国のあいだに広げ、値段のほうからあるべきレートを逆に計算したものです。「購買力がどの国でも等しくなるレート」という意味になります。
問2 日本でビッグマックが1個400円、アメリカで1個5ドルなら、購買力平価は1ドル=80円になる。
答え:○
400円=5ドルの両辺を5で割ると、80円=1ドルです。ビッグマック1個が同じ値段になるための、円とドルの交換比率です。
問3 購買力平価を使えば、明日の為替レートを当てることができる。
答え:×
購買力平価は長期の目安です。日々のレートは、お金の動きや人々の思惑で大きく上下するため、短期の予想には向きません。
問4 実際の為替レートが購買力平価と食い違っていたら、その理論は間違いだと判断してよい。
答え:×
食い違いは普通のことです。むしろ、今の為替が長期の目安と比べて高すぎるか安すぎるかを測る点にこそ、この考え方の意味があります。
問5 送料や関税、店の人件費、税の違いがあっても、国どうしの値段は完全に一致する。
答え:×
現実にはこうした違いがあるため、値段は完全には一致しません。購買力平価は、あくまで理想の目安です。
次に読む:S3-30「金利平価」
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