マンデル=フレミング・モデル:為替の動きで政策の効き目が変わる

マクロ S3-31 マンデル=フレミング マクロ経済学

Q.変動相場制で財政政策が効きにくいのは、なぜですか。

A.政府がお金を使って景気を刺激すると、国内で利子率が上がりやすくなります。すると高い利子を求めて海外からお金が流れ込みます。そのお金は自国通貨に交換されるので、自国通貨の価値が上がります。通貨高になると輸出が減り、輸入が増えます。この輸出の落ち込みが、政府支出で増やした需要をちょうど打ち消します(このモデルの前提での、割り切った結論です)。現実には「財政政策が効きにくくなる」という程度の差として現れます。

⭐ 重要度:A / 出題頻度:A

📘 テキスト対応:第17章 17-4・17-5(マンデル=フレミング)

📗 前提記事S3-13「IS-LMで政策を見る」

⏱ 読了目安:10分

まず、どこでつまずくのか

景気が悪いとき、国が打つ手は大きく2種類あります。1つは金融政策です。中央銀行が世の中に回るお金の量を増やす方法です。もう1つは財政政策です。政府がお金を使って道路を作ったり、給付をしたりする方法です。

ふつうは、どちらも景気を温める効果があると習います。ところが、ここで多くの人が混乱します。「同じ対策なのに、効いたり効かなかったりする」と言われるからです。

その分かれ目になるのが、為替のしくみです。為替とは、円と外国のお金を交換する仕組みのことです。この為替が自由に動くか、固定されているかで、政策の効き目が変わります。

この関係を整理した考え方が、マンデル=フレミング・モデル(Mundell-Fleming model)です。名前は難しそうですが、中身は「為替の動きが政策の効果を打ち消したり強めたりする」という一点に尽きます。ここを押さえれば、迷いはほぼ消えます。

iYBP(世界の金利)金融政策:効くLM右へ→Y増(BP上)E0iYBP(世界の金利)財政政策:効きにくい通貨高でISが戻る→Y不変E0
図 資本移動が自由な小国。変動相場制では金融政策が効き(Y増)、財政政策は通貨高で打ち消され効きにくい

身近な例で考える(お金は高い利子を探して動く)

まず、お金の性質を1つ思い出します。お金は、少しでも多く増える場所へ動きたがります。銀行の利子(お金を預けたときに増える割合)が高い国があれば、世界中のお金がそこへ集まろうとします。

たとえば、A国の利子が年3パーセント、B国が年1パーセントだとします。お金を持つ人は、より多く増えるA国に預けたくなります。国境を越えてお金を動かすことが自由なら、B国からA国へお金が流れます。

ここで大事なのが、次のつながりです。

  • お金がA国に集まる → A国のお金(通貨)を欲しがる人が増える
  • 通貨を欲しがる人が増える → その通貨の値段が上がる(通貨高になる)
  • 通貨が高くなる → その国の輸出品が外国では割高になり、売れにくくなる

逆に利子が下がって、お金が出ていく場合は反対です。通貨が安くなり、輸出品は割安になって売れやすくなります。この「利子 → お金の流れ → 通貨の値段 → 輸出」というつながりが、モデル全体の心臓部です。

舞台設定:資本移動が自由な「小国」

このモデルには、2つの前提があります。言葉は硬いですが、意味はやさしいです。

1つ目は資本移動が自由という前提です。資本とは、ここではお金のことです。お金が国境を越えて自由に出入りできる、という意味です。前の節で見たとおり、少しでも利子が違えば、お金がすぐ動く状態です。

2つ目は小国という前提です。これは国土が小さいという意味ではありません。世界全体の中では影響力が小さく、世界の利子率を自分では動かせない国という意味です。世界の利子が3パーセントなら、その国もその高さに合わせるしかありません。

この2つが重なると、次のことが起きます。もし国内の利子が世界より少しでも高くなれば、お金がどっと入ってきます。少しでも低くなれば、どっと出ていきます。だから国内の利子は、いつも世界の利子と同じ高さに引き戻されます。この「引き戻す力」が、政策の効き目を左右します。

変動相場制のとき:金融政策が効く

変動相場制とは、為替の値段を市場の売り買いに任せて、自由に動かす仕組みです。通貨の値段は、その日その日で上下します。

この状態で、中央銀行が金融緩和をしたとします。世の中のお金を増やす対策です。お金が増えると、まず国内の利子が下がろうとします。

すると、次の流れが起きます。

  • 国内の利子が下がる → お金が海外へ出ていく
  • その国の通貨を売る人が増える → 通貨が安くなる
  • 通貨が安くなる → 輸出品が割安になり、よく売れる

ここが大切です。輸出がよく売れると、その国の生産と所得が増えます。つまり、金融緩和そのものの効果に加えて、通貨安による輸出増という追い風が乗ります。為替の動きが政策の効果を強めるのです。だから変動相場制では、金融政策がよく効きます。

一方、政府がお金を使う財政政策は、うまくいきません。政府支出で景気を温めると、国内の利子が上がろうとします。すると海外からお金が入り、通貨が高くなります。通貨高で輸出が減り、その減少がせっかくの政府支出を打ち消します。為替の動きが効果を打ち消すため、財政政策は効きにくくなります。

固定相場制のとき:財政政策が効く

固定相場制とは、為替の値段をあらかじめ決めた水準に固定する仕組みです。たとえば「1ドル=120円」と決め、その値段を政府と中央銀行が守ります。値段がずれそうになると、中央銀行が通貨を売り買いして元に戻します。

この仕組みでは、通貨の値段が動けません。だから前の節のような「通貨高・通貨安による打ち消し」が起きません。ここが変動相場制との決定的な違いです。

固定相場制で財政政策を打つと、こうなります。政府支出で利子が上がろうとし、海外からお金が入ります。ふつうなら通貨高になりますが、固定相場を守るため中央銀行が自国通貨を売ります。その結果、世の中のお金が増え、金融緩和と同じ効果が自然に加わります。財政政策の効果が、じゃまされずに残ります。だから財政政策がよく効きます。

逆に金融政策は効きません。お金を増やして利子を下げようとしても、お金が海外へ逃げ、通貨が安くなろうとします。固定相場を守るため、中央銀行は今度は自国通貨を買い戻します。その結果、増やしたはずのお金が元に戻り、効果が消えてしまいます。

経済学ではこう使う

次の表のような対応関係が大切です。まず、この4つの結論を丸ごと覚えるのが近道です。

  • 変動相場制では、金融政策は効く/財政政策は効きにくい
  • 固定相場制では、金融政策は効きにくい/財政政策は効く

ただ暗記するだけでは、ひっかけ問題で崩れます。そこで、判断の順番を1つ持っておくと安全です。次のように考えます。

  • その政策で、国内の利子は上がるか下がるか
  • 利子の変化で、お金はどちらへ動くか
  • そのお金の動きで、通貨は高くなるか安くなるか(変動相場制の場合)
  • あるいは、中央銀行がどう通貨を売り買いするか(固定相場制の場合)
  • 最後に、輸出やお金の量がどう変わり、効果が強まるか消えるか

図解では、この流れをグラフで表します。横軸に国民所得、縦軸に利子率をとり、モノの市場を表すIS曲線、お金の市場を表すLM曲線、そして海外とのお金の出入りがつり合うBP曲線の3本を使います。資本移動が自由な小国では、BP曲線は世界の利子率の高さで水平になります。この水平の線が、利子を世界水準へ引き戻す力を表しています。

※ この説明が成り立つ前提

ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。

  • 自国の動きが世界の金利に影響しない小さな国で、お金が完全に自由に出入りし、物価は動かない、という前提です。
  • 「無効」「有効」は、この強い前提のもとでの極端な結論です。現実には「効きにくい/効きやすい」という程度の差になります。
  • 固定相場制では、為替を保つために中央銀行が反対方向の売買をするため、金融政策の効果が打ち消されます。

○×で確認

ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。

問1 金融政策は、変動相場制でも固定相場制でも同じようによく効く。

問2 変動相場制で財政政策を打つと、利子率の上昇で海外からお金が入り、通貨高で輸出が減って効果が打ち消される。

問3 お金が海外から流れ込んでくる国では、その国の通貨は安くなる。

問4 このモデルでいう「小国」とは、世界の利子率を自分では動かせない国という意味である。

問5 この結論は、お金の出入りに強い制限がある国にも、そのまま当てはまる。

○×の解説

問1 金融政策は、変動相場制でも固定相場制でも同じようによく効く。

答え:×

よく効くのは変動相場制のときだけです。固定相場制では、為替を保つために中央銀行が反対方向の売買をするため、増やしたはずのお金が元に戻り効果が消えます。相場のしくみとセットで覚えます。

問2 変動相場制で財政政策を打つと、利子率の上昇で海外からお金が入り、通貨高で輸出が減って効果が打ち消される。

答え:○

そのとおりです。政府支出で国内の利子が上がろうとすると、高い利子を求めてお金が流れ込み、自国通貨に交換されるので通貨高になります。輸出の落ち込みが政府支出で増やした需要を打ち消すため、財政政策は効きにくくなります。

問3 お金が海外から流れ込んでくる国では、その国の通貨は安くなる。

答え:×

逆で、高くなります。その通貨を欲しがる人が増えるからです。人気が集まれば値段が上がる、という当たり前の感覚に戻ると間違えません。

問4 このモデルでいう「小国」とは、世界の利子率を自分では動かせない国という意味である。

答え:○

そのとおりで、国土の大きさの話ではありません。世界全体の中では影響力が小さいため、世界の利子が3パーセントなら、その国もその高さに合わせるしかないという前提です。

問5 この結論は、お金の出入りに強い制限がある国にも、そのまま当てはまる。

答え:×

当てはまりません。この結論は「資本移動が自由」で「小国」という前提の上に成り立っています。結論だけでなく前提も一緒に思い出す習慣をつけると確実です。


次に読むS3-32「Jカーブ効果」

この記事に誤りや分かりにくい点があれば、お問い合わせフォームからお知らせください。どの記事についてのご連絡かは、フォームに自動で入力されます。