Q.関税をかけると、消費者・国内生産者・政府の得はそれぞれ増えますか、減りますか。また社会全体では最終的にどうなりますか。
A.消費者の得(消費者余剰)は減ります。国内生産者の得(生産者余剰)は増えます。政府には関税収入という得が生まれます。ところが、消費者が失った分の一部は、生産者にも政府にも移らず、どこにも行き着かずに消えます。これが死荷重です。増えた得より減った得のほうが大きく、社会全体では差し引きで損が残ります。
まず、どこでつまずくのか
「関税をかけると国産品が守られて良いこと」。そう聞くと、話は単純に思えます。でも大事なのは、もう一歩先です。
つまずきやすいのは、次の点です。
- 関税で得をする人と損をする人が、同時に出てくること。
- その得と損を、なんとなくではなく面積として比べること。
- 足し引きすると、どこにも行かずに消える損が残ること。
この「消える損」が死荷重(deadweight loss、デッドウェイトロス)です。名前だけ覚えても、図が読めないと点になりません。
ここでは、身近な話からゆっくり組み立てます。用語は、イメージができてから出します。
身近な例で考える
あるくだもの、たとえばオレンジを思い浮かべます。国内でも作れますが、外国から安く運んでこられるとします。
外国のオレンジは1個100円で買えるとします。国内の農家が作ると、どうしても120円かかるとします。
このままなら、店に並ぶのは安い外国産です。買い手は喜びます。でも国内の農家は、値段で負けてあまり売れません。
そこで政府が「輸入するオレンジ1個につき30円をもらう」と決めたとします。これが関税(tariff、タリフ)です。国境で品物にかける税金のことです。
すると外国産は、100円に30円が乗って店では130円になります。急に、国内産の120円のほうが安く見えてきます。
この「値段が動く」ことが、すべての出発点です。(なお実際には、国内で作る量を増やすほど1個あたりの費用も上がっていくため、国内産の値段も関税込みの130円の近くまで上がり、輸入も一部は続きます。後半の余剰の図は、その状態を描いています。)
値段が上がると、3人の立場が変わる
関税で店頭の値段が上がりました。ここで、登場人物を3人に分けて見ます。
- 買い手(消費者):前より高いお金を払うので、うれしくありません。買う量も少し減ります。
- 国内の農家(生産者):高くても売れるようになり、作る量も増えます。うれしい立場です。
- 政府:輸入1個ごとに関税を受け取るので、お金が入ります。
ここで大事なのは、買い手が失ったお金が、まるごと消えるわけではない点です。一部は農家へ、一部は政府へと移っているだけです。
では、移らずに本当に消えてしまう分はあるのでしょうか。それを測るために「余剰」という道具を使います。
「余剰」をおさらいする
余剰(surplus、サープラス)とは、取引で得られる「うれしさ」を金額に直したものです。得の大きさを面積で表せる、便利な考え方です。
2種類あります。
- 消費者余剰:「本当はこれくらいまでなら払ってもよい」と思う金額から、実際に払った金額を引いた差です。安く買えるほど大きくなります。
- 生産者余剰:受け取った金額から、「最低これだけは欲しい」という金額を引いた差です。高く売れるほど大きくなります。
需要と供給の図では、これらは決まった面積として現れます。値段が動けば、面積も増えたり減ったりします。
関税の分析とは、この面積が誰の側でどれだけ増減したかを数える作業です。図(この記事の図解)を横に置いて読み進めると、迷いにくくなります。
経済学ではこう使う(面積で分解する)
図には、低い「世界価格」の線と、少し高い「関税後の価格」の線が2本あります。この2本にはさまれた部分を、左から4つの区画に分けます。仮に a・b・c・d と呼びます。
それぞれの意味は、こう対応します。
- a+b+c+d:値段が上がったことで、消費者余剰が減った分。買い手が失った得の合計です。
- a:農家がより高く売れるようになって生産者余剰が増えた分。
- c:輸入品にかかった関税が集まった、政府の関税収入。
ここで足し引きします。消費者が失った a+b+c+d のうち、a は農家へ、c は政府へ移っただけです。国全体で見れば、この2つは「移動」であって、消えてはいません。
残るのは b と d です。この2つは、農家にも政府にも入りません。誰の得にもならずに、まるごと消えます。これが死荷重です。
式で書くと、次のようになります。
- 社会全体の損 =(消費者の減少 a+b+c+d)-(生産者の増加 a)-(政府の収入 c)
読み下すと、「買い手が失った得から、農家と政府に移った分を差し引いた残り」です。計算すると b+d が残ります。これが差し引きの純粋な損です。
死荷重はなぜ生まれるのか
2つの三角形 b と d が、それぞれ別の「もったいなさ」を表しています。
b(生産側のもったいなさ)です。関税で値段が上がると、国内では本来120円かかる高コストの生産が増えます。外国なら100円で作れたのに、わざわざ高くつく作り方に切り替えた分のむだです。
d(消費側のもったいなさ)です。値段が上がったせいで、買うのをやめた人がいます。100円なら買えて満足できたはずの取引が、まるごと成立しなくなりました。その失われた満足です。
どちらも、「安く手に入るはずだったのに、関税がじゃまをした」ために生じます。だから死荷重は、関税の副作用のようなものだと言えます。
関税を高くするほど、この2つの三角形は大きくなります。守られる農家の得より、社会全体の損が目立ってくる、というのが余剰分析の結論です。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- 自国の輸入量が世界の値段を動かさない小さな国を想定しています。
- 大きな国では、関税で輸入品を安く買えるようになる場合があり、結論が変わることがあります。
- 死荷重は「お金が消える」のではなく、本来できたはずの取引が行われなくなることによる損失です。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 関税をかけると、消費者余剰は減り、国内生産者の生産者余剰は増える。
問2 消費者が失った得は、そのまま全部が社会全体の損になる。
問3 政府が受け取る関税収入は、関税によって新しく生まれた価値である。
問4 関税による死荷重は、生産側の b と消費側の d という2つの三角形を足したものである。
問5 関税を高くするほど、死荷重の2つの三角形は小さくなる。
○×の解説
問1 関税をかけると、消費者余剰は減り、国内生産者の生産者余剰は増える。
答え:○
そのとおりです。店頭の値段が上がるので買い手はうれしくなく、買う量も減ります。一方、国内の農家は高くても売れるようになり、作る量も増えます。
問2 消費者が失った得は、そのまま全部が社会全体の損になる。
答え:×
ちがいます。消費者が失った a+b+c+d のうち、a は農家へ、c は政府へ移っただけです。移った分は社会の損には数えず、残る b+d が社会全体の損になります。
問3 政府が受け取る関税収入は、関税によって新しく生まれた価値である。
答え:×
新しく生まれた価値ではありません。政府の収入 c は、もとをたどれば消費者が余分に払ったお金が移ってきたものです。だから社会全体で見れば移動にすぎません。
問4 関税による死荷重は、生産側の b と消費側の d という2つの三角形を足したものである。
答え:○
そのとおりです。b は高くつく国内生産に切り替わったむだ、d は値上がりで買うのをやめた人の失われた満足を表します。死荷重を1つの三角形だと思い込まないようにします。
問5 関税を高くするほど、死荷重の2つの三角形は小さくなる。
答え:×
逆で、関税を高くするほど2つの三角形は大きくなります。守られる農家の得より社会全体の損が目立ってくる、というのが余剰分析の結論です。
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