留保需要とは?──「売らずに自分で住む」ぶんも需要に数える理由

不動産 S4-08 留保需要 のアイキャッチ 不動産へのブリッジ

Q.留保需要とは、ひとことで言うと何ですか。

A.住宅などを持っている人が、それを市場に売りにも貸しにも出さず、自分で使い続けるぶんの需要のことです。売り物として表には出てきませんが、その人自身が「住むサービス」を消費している、という意味で、りっぱな需要の一つとして数えます。

⭐ 重要度:S / 出題頻度:S

📘 テキスト対応:第10章(不動産市場・留保需要)

📗 前提記事S4-07「住宅のストックとフロー」

⏱ 読了目安:9分

まず、どこでつまずくのか

「需要」と聞くと、お店でお金を払って買う人を思いうかべます。だから、自分の持ち家に住んでいる人は「何も買っていない」と感じます。ここが最初のつまずきです。

ですが経済学では、持ち家に自分で住むことも、住宅サービスの需要の一つとして数えます。この考え方が、最初はうまく飲みこめません。

つまずきは、だいたい次の3つに分かれます。

  • 「需要=市場でお金を払う人」だと思いこむ。実際には、市場に出さず自分で使うことも消費です。
  • 持ち家の人を「供給側」だと決めつける。家を持っている、という点だけを見てしまうためです。
  • 市場に出てきた量が世の中の全部だと考える。表に出ない分があることを見落とします。

この記事では、この3つを一つずつほどいていきます。カギになる言葉が留保需要(reserve demand)です。まずは身近な場面から始めます。

家賃数量市場に出た分だけで見る市場需要D市場供給S市場に出た量R*家賃数量留保も含めた総量で見る総供給(=ストック)総需要(留保含む)住宅ストック全体R* どちらの見方でも、決まる家賃R*は同じ高さになる
図 左は市場に出た分だけで見た均衡。右は留保分も含めた総量で見た均衡(短期のストックは固定なので総供給は垂直)。どちらで見ても、決まる家賃R*は同じ高さになる

身近な例で考える

畑を持っている農家を思いうかべます。とれた野菜の一部は、市場に出して売ります。残りの一部は、売らずに自分の家で食べます。

市場に出た野菜は、値段がついて取引されます。目に見える「需要と供給」です。では、自分で食べた分はどうでしょう。

お金のやり取りはありませんが、その野菜はちゃんと消費されています。農家自身が、自分の野菜の買い手になっている、と考えることができます。

持ち家も、これとまったく同じ形です。家を持つ人は、それを他人に貸すこともできます。貸せば家賃が入ります。

それでも「貸さずに自分で住む」を選んだなら、その人は本来もらえたはずの家賃を、自分に払って住んでいるようなものです。この、自分に払っているとみなす家賃を帰属家賃(imputed rent)と呼びます。

売りにも貸しにも出さず、自分で使い続ける。この「表に出さずに自分で消費する分の需要」が、留保需要です。留保とは「手元にとどめておく」という意味です。

「市場に出る分」と「出ない分」を分ける

ここで、住宅を全体としてながめてみます。世の中にある住宅の総量を、住宅ストックと呼びます。ストックとは「積み上がった蓄え」のことです。

この住宅ストックは、大きく二つに分かれます。

  • 市場に出る分。貸しに出された部屋、売りに出された家です。値段(家賃や価格)がついて取引されます。
  • 市場に出ない分。所有者が自分で住み続けている家です。これが留保された分です。

ここで一つ注意です。「貸す市場(決まるのは家賃)」と「売る市場(決まるのは価格)」は、本来は別の市場です。このあとの図は、話をはっきりさせるために貸す市場(家賃)にしぼって描いています。売る市場でも、縦軸を価格に置きかえれば同じ読み方ができます。

大事なのは、この二つを足すと住宅ストック全体になる、という点です。市場に出た分だけを見ても、世の中の住宅の全部にはなりません。

そして、市場に出ない分の裏側には、所有者自身の需要があります。「他人に渡さず、自分がこの家に住みたい」という気持ちです。これが留保需要でした。

言いかえると、留保需要とは所有者が、自分の住宅を市場に出さずに自分で消費し続けようとする需要です。売り手のようでいて、その正体は自分自身への需要なのです。

図で見る:市場曲線と総曲線

この違いは、図にすると一気に見通しがよくなります。同じ一つの状態を、二つの見方であらわします。

一つ目は市場曲線です。市場に出てきた分だけを描きます。借りたい・買いたい人の量を集めた右下がりの市場需要曲線と、貸す・売る人の量を集めた右上がりの市場供給曲線です。この二本が交わる点で、均衡家賃R*が決まります。

二つ目は総曲線です。留保した分まで全部を描きます。短い期間では住宅ストックの量はほぼ決まっています。だから総供給は、その量のところで縦にまっすぐ立つ「垂直」な線になります。総需要は、市場需要に留保需要を足したものです。

留保需要も足した総需要(右下がり)と、垂直な総供給が交わる点で、均衡家賃R*が決まります。総需要と、市場で取引される量の差が、そのまま留保需要にあたります。

そして、どちらの見方でも均衡家賃R*は同じ高さになります。市場曲線で見ても、総曲線で見ても、行きつく家賃は変わりません。見せ方が違うだけで、同じ現実を指しているのです。

経済学ではこう使う(鑑定・不動産との接続)

不動産鑑定では、市場で成立する家賃や地価を見きわめます。ですが市場に出てくる量は、住宅ストック全体の一部にすぎません。ここで総曲線の見方が効いてきます。

たとえば、ある地域で家賃R*が上がったとします。すると、これまで自分で住んでいた持ち家の一部が、賃貸に回り始めます。留保していた分が、市場に出てくるのです。

  • 家賃が上がる。留保を続ける理由が弱まる。市場に出る分が増える。
  • 家賃が下がる。貸すうまみが減る。手元にとどめて自分で住む(留保する)人が増える。

つまり留保需要は、家賃の動きに応じて増えたり減ったりする調整弁です。市場供給曲線が右上がりになる理由の一つが、ここにあります。

この見方は、地価Pの理解にもつながります。地価Pは、これから得られる地代Rを、割引率iで割り引いて足し合わせたものと考えられます。留保需要が大きい地域は、市場に出る量が少なく、少しの需要の変化でも家賃が動きやすくなります。

持ち家率の高い地域と低い地域では、同じ需要の変化でも市場への出方が違います。留保需要という概念は、その差を読み解く手がかりになります。表に出ない分まで視野に入れることが、鑑定では大切になります。

※ この説明が成り立つ前提

ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。

  • 持ち主が「売る・貸す・自分で使う」を自由に選べる場合の話です。
  • 自分で使う分(留保需要)は「その価格なら手放さない」という形で需要に数えます。

○×で確認

ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。

問1 留保需要とは、所有者が住宅などを市場に売りにも貸しにも出さず、自分で使い続けるぶんの需要のことである。

問2 持ち家に自分で住んでいる人はお金を払っていないので、住宅サービスの需要には数えない。

問3 留保需要は、家を持っている人の話なので、供給側の量として整理される。

問4 市場曲線で見たときと、留保分も含めた総曲線で見たときとでは、決まる均衡家賃の高さが違ってくる。

問5 家賃が上がると留保需要は減り、家賃が下がると留保需要は増える。

○×の解説

問1 留保需要とは、所有者が住宅などを市場に売りにも貸しにも出さず、自分で使い続けるぶんの需要のことである。

答え:○

留保とは「手元にとどめておく」という意味です。表には出てきませんが、その人自身が住むサービスを消費しているので、りっぱな需要の一つとして数えます。

問2 持ち家に自分で住んでいる人はお金を払っていないので、住宅サービスの需要には数えない。

答え:×

これが最大の誤解です。とれた野菜を自分で食べる農家と同じで、自分で使うことも消費であり、本来もらえたはずの家賃(帰属家賃)を自分に払って住んでいるとみなします。

問3 留保需要は、家を持っている人の話なので、供給側の量として整理される。

答え:×

家を持っているという点だけを見ると供給に見えますが、中身は「他人に渡さず自分がこの家に住みたい」という所有者自身の需要です。

問4 市場曲線で見たときと、留保分も含めた総曲線で見たときとでは、決まる均衡家賃の高さが違ってくる。

答え:×

見せ方が違うだけで、行きつく均衡家賃R*は同じ高さになります。二つは対立する考え方ではなく、同じ現実の二つの写し方です。

問5 家賃が上がると留保需要は減り、家賃が下がると留保需要は増える。

答え:○

家賃が上がれば貸すうまみが増え、留保を続ける理由が弱まって市場に出る分が増えます。留保需要は値段に応じて動く調整弁であり、固定の量ではありません。


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