貿易赤字は「損している」のか

つまずき S5-09 貿易赤字は損か のアイキャッチ つまずき・誤解

Q.貿易赤字は、その国が損している・負けている、ということですか?

A.いいえ。貿易赤字は輸入が輸出より多いというだけで、その裏側は海外からの資金流入です。国内の貯蓄と投資の差の反映であり、勝ち負けや損得の話ではありません。(その差に厳密に対応するのは、財の貿易収支ではなく経常収支です。)

⭐ 重要度:A / 出題頻度:B

📘 テキスト対応:第17章 17-2

📗 前提記事S3-05「ISバランス」

⏱ 読了目安:7分

よくある誤解

「貿易赤字だから日本は負けている・損している」。スポーツの勝敗のように語られがちですが、経済学では貿易赤字は損得ではなくバランスの結果と見ます。

貿易赤字=輸入が多いだけ

貿易赤字とは、輸入額 > 輸出額の状態。海外からモノをたくさん受け取り、その分お金を払っている、というだけのことです。受け取ったモノは国内で使われるので、一概に“損”とは言えません。

裏側は貯蓄と投資の差

マクロで見ると、海外とのやりとりの収支は国内の貯蓄と投資の差で決まります(ISバランス)。国内の投資が貯蓄より多い(=お金が足りない)と、その不足を海外からの資金でまかなうため、赤字になります。つまり赤字は“海外からの資金の受け入れ”の裏返しです。

言葉を2つだけ分けておきます。貿易収支はモノの輸出入の差、経常収支はそれにサービスや海外から受け取る利子・配当などを加えたものです。貯蓄と投資の差にきちんと対応するのは経常収支のほうで、貿易収支はその大きな一部だと考えてください。また「海外からの資金」は借入れだけではありません。海外から株式や不動産を買ってもらう、これまで持っていた海外資産を取り崩す、といった形もあります。

赤字が悪いとは限らない

成長している国が、国内の投資を活発に行って一時的に貿易赤字になるのは、むしろ前向きな姿です。逆に黒字も“貯蓄しすぎ・投資不足”の裏返しかもしれません。黒字=勝ち、赤字=負け、という単純化はできません。

まとめ

貿易赤字は勝敗ではなく貯蓄・投資バランスの結果。「損している」という感覚は、いったん脇に置いて、お金の流れの帳尻として読むのが正解です。

※ この説明が成り立つ前提

ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。

  • 「収支=貯蓄−投資」の整理は、国全体を事後的に集計した会計上の関係です。個々の企業の輸出入の損得の話ではありません。
  • この式に厳密に対応するのは経常収支です。ニュースでよく聞く貿易収支は、その一部(モノの輸出入)にあたります。

○×で確認

ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。

問1 貿易赤字とは、輸入額が輸出額を上回っている状態のことである。

問2 貿易赤字は、その国が貿易で損をして負けていることを意味する。

問3 マクロで見ると、貿易収支は国内の貯蓄と投資の差で決まる。

問4 国内の投資が貯蓄より多い国では、その不足を海外から借りて埋めるため、貿易黒字になりやすい。

問5 貿易黒字は常に望ましい状態であり、黒字が大きいほどその国の経済は健全だと言える。

○×の解説

問1 貿易赤字とは、輸入額が輸出額を上回っている状態のことである。

答え:○

定義どおりです。海外からモノをたくさん受け取り、その分お金を払っているというだけの状態で、受け取ったモノは国内で使われるため、一概に「損」とは言えません。

問2 貿易赤字は、その国が貿易で損をして負けていることを意味する。

答え:×

本文が取り上げた典型的な誤解です。経済学では貿易赤字は損得や勝ち負けではなく、貯蓄と投資のバランスの結果と見ます。その裏側は海外からの資金流入です。

問3 マクロで見ると、貿易収支は国内の貯蓄と投資の差で決まる。

答え:○

そのとおりで、これがISバランスの考え方です。貿易赤字は「海外からの資金の受け入れ」の裏返しとして読むことができます。

問4 国内の投資が貯蓄より多い国では、その不足を海外から借りて埋めるため、貿易黒字になりやすい。

答え:×

黒字ではなく貿易赤字になります。国内のお金が足りない分を海外から借りて埋める、その裏返しが貿易赤字だからです。

問5 貿易黒字は常に望ましい状態であり、黒字が大きいほどその国の経済は健全だと言える。

答え:×

黒字も「貯蓄しすぎ・投資不足」の裏返しかもしれない、と本文は述べています。黒字=勝ち、赤字=負けという単純化はできません。


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