Q.経常収支をアブソープションで見る方法とISバランスで見る方法、混乱します。別物ですか?
A.どちらも同じ恒等式の言い換えです。純輸出=生産−アブソープション(内需)=貯蓄−投資。切り口が違うだけで、指しているものは同じです。
(この式で出てくるのは純輸出です。海外から受け取る利子・配当なども入れた「経常収支」は、純輸出に第一次所得・第二次所得を加えたもので、厳密には別物です。)
⭐ 重要度:参考(テキスト範囲外の発展事項)
📘 テキスト対応:第17章 17-2-2(ISバランス・アプローチ)の発展(テキスト本文では扱っていない発展事項)
📗 前提記事:S3-05「ISバランス」
⏱ 読了目安:6分
2つの見方が出てきて混乱する
開放経済では、純輸出(輸出−輸入)を説明するのに2つの式が出てきます。アブソープション・アプローチとISバランス。名前が違うので別の理論に見えますが、正体は同じです。
アブソープション・アプローチ
アブソープション(absorption)とは、国内で吸収される支出=内需(消費+投資+政府支出)のこと。純輸出は「作った量(生産)−使った量(内需)」で表せます。作ったより使わなければ、余りを輸出して黒字、というイメージです。
ISバランス
一方ISバランスは、同じ純輸出を「貯蓄−投資」で見ます。国内で貯めたお金が、国内の投資より多ければ、その余りが海外へ回って黒字になる、という見方です(S5-09で使った考え)。
実は同じこと
マクロの恒等式 Y=C+I+G+NX を並べ替えます。まず NX=Y−(C+I+G)と書けば、これは生産Y−内需(C+I+G)そのもの。さらに、貯蓄を S=Y−C−G(所得から消費と政府支出を除いた残り)とおくと、同じ式は NX=S−I とも書けます。つまりNX(純輸出)=生産−内需=貯蓄−投資が同時に出てきます。つまり両アプローチは同じ1つの式を、支出側から見るか貯蓄側から見るかの違いにすぎません。
使い分け
政策効果を「需要の増減」で語りたいときはアブソープション、「貯蓄・投資の構造」で語りたいときはISバランス。問われ方に合わせて呼び名を選ぶだけで、中身は共通だと分かっていれば混乱しません。
まとめ
アブソープションとISバランスは同じ恒等式の別表現。生産−内需か、貯蓄−投資か。切り口の違いと割り切れば、開放経済の答案が安定します。
※ この説明が成り立つ前提
ここまでの説明は、話を分かりやすくするために次のような単純化をしています。細かい条件なので、はじめのうちは読み飛ばしても構いません。
- Y−A=NX は、GDPの支出面の式から導いた純輸出についての関係です。
- 経常収支は、純輸出に海外から受け取る利子・配当など(第一次所得)と第二次所得を加えたものです。本記事で導いているのは純輸出のほうです。
- どちらも因果ではなく、後から集計すると成り立つ会計上の関係です。
○×で確認
ここまでの内容を、○×で確かめます。5問すべてに答えてから、次の解説へ進んでください。
問1 アブソープションとは、消費・投資・政府支出を合わせた国内の支出(内需)のことである。
問2 純輸出は「生産−内需」とも「貯蓄−投資」とも書ける。
問3 アブソープション・アプローチとISバランスは、別々の理論であり、導かれる結論も異なる。
問4 海外から受け取る利子や配当まで含めた「経常収支」は、純輸出と厳密には同じものである。
問5 どちらの見方を使うかは、説明したい切り口(需要の増減か、貯蓄・投資の構造か)に合わせて選べばよい。
○×の解説
問1 アブソープションとは、消費・投資・政府支出を合わせた国内の支出(内需)のことである。
答え:○
そのとおりです。国内で「吸収」される支出、という意味の言葉です。
問2 純輸出は「生産−内需」とも「貯蓄−投資」とも書ける。
答え:○
そのとおりです。同じ恒等式 Y=C+I+G+NX を並べ替えただけなので、どちらの形でも表せます。
問3 アブソープション・アプローチとISバランスは、別々の理論であり、導かれる結論も異なる。
答え:×
どちらも同じ恒等式の言い換えです。支出側から見るか、貯蓄側から見るかの違いにすぎません。
問4 海外から受け取る利子や配当まで含めた「経常収支」は、純輸出と厳密には同じものである。
答え:×
厳密には別物です。経常収支には財・サービスの純輸出のほかに、海外からの所得なども含まれます。この記事では単純化して扱っています。
問5 どちらの見方を使うかは、説明したい切り口(需要の増減か、貯蓄・投資の構造か)に合わせて選べばよい。
答え:○
そのとおりです。中身は共通なので、問われ方に合わせて呼び名を選ぶだけで混乱しなくなります。
この記事に誤りや分かりにくい点があれば、お問い合わせフォームからお知らせください。どの記事についてのご連絡かは、フォームに自動で入力されます。

