〔問題〕
価格の種類等に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1) 不動産鑑定士による不動産鑑定評価は、不動産の適正な価格形成に資するものでなければならないため、現実の社会経済情勢を前提としつつも、必要に応じて不動産鑑定士が合理的と考えられる市場条件を付加したうえで、適正な価格(正常価格)を求めることが要請される。
(2) 土地及び建物から構成される複合不動産について、現実の建物の用途がその敷地の更地としての最有効使用に一致していない場合には、その更地としての最有効使用を前提に正常価格を求める。
(3) 不動産鑑定評価基準各論第3章第1節に規定する証券化対象不動産の鑑定評価目的の下で投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合に、正常価格を求める場合の条件の内容と異なる場合には、特殊価格として求める。
(4) 市場性を有する土地に関し、残地の価値が著しく低下するような分割により残地を除く部分の土地を取得する場合において、このような経済合理性に反する分割を反映した市場価値を表示する価格の種類は限定価格となる。
(5) 文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用状況を前提とせず正常価格として求める場合、その希少性や歴史的価値等の観点から用途変更や取壊しを考慮して鑑定評価を行うことはできない。
解答
解説
この問題は、総論第5章第3節「鑑定評価によって求める価格又は賃料の種類の確定」から問われている問題です。
(1):誤
不動産鑑定士による不動産鑑定評価は、不動産の適正な価格形成に資するものでなければならないため、現実の社会経済情勢を前提としつつも、必要に応じて不動産鑑定士が合理的と考えられる市場条件を付加したうえで、適正な価格(正常価格)を求めることが要請される。
「正常価格の前提条件」について述べられた選択肢であり、基準には以下のように記載されています。
基準・留意正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう【201】
これは、正常価格は現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場を前提とします。
従って、「不動産鑑定士が合理的と考える市場条件を付加する」とする本肢は誤りです。
(2):誤
土地及び建物から構成される複合不動産について、現実の建物の用途がその敷地の更地としての最有効使用に一致していない場合には、その更地としての最有効使用を前提に正常価格を求める。
「建物及びその敷地の最有効使用の判定」について述べられた選択肢であり、基準には以下のように記載されています。
基準・留意現実の建物の用途等が更地としての最有効使用に一致していない場合には、更地としての最有効使用を実現するために要する費用等を勘案する必要があるため、建物及びその敷地と更地の最有効使用の内容が必ずしも一致するものではないこと【288】
つまり、立退料が多額となる場合等では、現実の建物の用途が更地としての最有効使用と一致しなくても、「現実の建物の用途を継続する」のが最有効使用と判定されることがあるということです。
従って、「更地としての最有効使用を前提に正常価格を求める」とする本肢は誤りです。
(3):誤
不動産鑑定評価基準各論第3章第1節に規定する証券化対象不動産の鑑定評価目的の下で投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合に、正常価格を求める場合の条件の内容と異なる場合には、特殊価格として求める。
「証券化対象不動産の鑑定評価」について述べられた選択肢であり、留意事項には以下のように記載されています。
基準・留意投資対象資産としての不動産の取得時又は保有期間中の価格を求める鑑定評価については、上記鑑定評価目的の下で、資産流動化計画等により投資家に開示される対象不動産の運用方法を所与とするが、その運用方法による使用が対象不動産の最有効使用と異なることとなる場合には特定価格として求めなければならない。【2112】
つまり、証券化対象不動産の運用方法が対象不動産の最有効使用と異なる場合は、特定価格として求めるということです。
従って、「特殊価格」とする本肢は誤りです。
実際には、証券化対象不動産は不動産運用方法は対象不動産の最有効使用と一致する場合が多くなっており、正常価格として求められます。
(4):正
市場性を有する土地に関し、残地の価値が著しく低下するような分割により残地を除く部分の土地を取得する場合において、このような経済合理性に反する分割を反映した市場価値を表示する価格の種類は限定価格となる。
「限定価格を求める場合の例」について述べられた選択肢であり、基準には「経済合理性に反する不動産の分割を前提とする売買に関連する場合【210】」は、例示されています。分割による経済価値の減少分を反映して価格を求める場合には、限定価格として求めます。
従って、本肢の内容は正しいです。
限定価格は特定価格と異なり、あくまで「求めることができる」というものであることに注意しましょう。また、併合・分割が行われても正常価格の水準と乖離しない場合や、経済価値の増減を反映しない場合は、正常価格として求める必要があることにも注意しましょう。
(5):誤
文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用状況を前提とせず正常価格として求める場合、その希少性や歴史的価値等の観点から用途変更や取壊しを考慮して鑑定評価を行うことはできない。
本肢は、「市場性を有しない不動産の鑑定評価」ついて述べられた選択肢です。
文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用状況を前提とせず正常価格として求める場合、その希少性や歴史的価値等を考慮しないため、用途変更や取壊しを最有効使用と判定して鑑定評価を行ことができます。
従って、「用途変更や取り壊しを考慮することはできない」とする本肢は誤りです。