〔問題〕
利回りに関する次のイからホまでの記述のうち、誤っているものをすべて掲げた組合せはどれか。
イ 還元利回りを求める方法の一つに、金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法がある。
ロ 10年物国債の利回りが上昇し、取引利回りから求められる還元利回りも上昇している場合、期待利回りも上昇する可能性が高い。
ハ 賃貸用不動産の鑑定評価に際しては、賃借人から預かった一時金の運用益を求めるための運用利回りとして、当該不動産の期待利回り及び金融機関の貸出金利のみを用いて確定しなければならない。
ニ 還元利回りを割引率との関係から求める場合、純収益の変動率がマイナスの場合には、還元利回りが割引率よりも大きくなる。
ホ 賃貸用マンションの鑑定評価において、対象不動産の近くで大規模ショッピングモールを建設中で近い将来開業が予定され、不動産価格が上昇すると見込まれる場合、還元利回りを低下させることがある。
(1) イとハ
(2) イとホ
(3) ロとハ
(4) ロとニ
(5) ハとホ
解答
解説
この問題は、総論第7章第1節「価格を求める鑑定評価の手法」から問われている問題です。
イ:誤
還元利回りを求める方法の一つに、金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法がある。
本肢は「誤」が正解です。基準では、「金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法【446】」は、割引率を求める方法として例示されています。
しかし、還元利回りも、金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法によって求めた割引率から求めることができるため、完全に誤りとは言い切れず、若干の疑念が残ります。
ロ:正
10年物国債の利回りが上昇し、取引利回りから求められる還元利回りも上昇している場合、期待利回りも上昇する可能性が高い。
期待利回りは還元利回りに準じて求めるものとされており、「還元利回りを求める方法」について基準では、「類似の不動産の取引事例との比較から求める方法【432】」が例示されています。
取引利回りから求められる還元利回りが上昇している場合、基本的には期待利回りも上昇します。
従って、本肢の内容は正しいです。
ただし、還元利回りは価格に対応するものであるのに対して、期待利回りは賃料に対応するものであるため、将来上昇への期待度やリスクを反映する度合いが価格と比較して低くなっています。還元利回りを求める場合には、価格との相関関係の程度や賃料の遅行性に留意する必要があります。
ハ:誤
賃貸用不動産の鑑定評価に際しては、賃借人から預かった一時金の運用益を求めるための運用利回りとして、当該不動産の期待利回り及び金融機関の貸出金利のみを用いて確定しなければならない。
「運用利回りの求め方」について述べられた選択肢であり、基準には以下のように記載されています。
基準・留意運用利回りは、賃貸借等の契約に当たって授受される一時金の性格、賃貸借等の契約内容並びに対象不動産の種類及び性格等の相違に応じて、当該不動産の期待利回り、不動産の取引利回り、長期預金の金利、国債及び公社債利回り、金融機関の貸出金利等を比較考量して決定するものとする。【461】
これは、多数の利回り・金融機関の金利を比較考量して決定する必要があるということです。
従って、「金融機関の貸出金利のみを用いる」とする本肢は誤りです。
ニ:正
還元利回りを割引率との関係から求める場合、純収益の変動率がマイナスの場合には、還元利回りが割引率よりも大きくなる。
還元利回りを割引率との関係から求める場合、「\( R = Y – g \)」の式で求めます。\( R \)が還元利回り、\( Y \)が割引率、\( g \)が変動率です。
算数的な問題となっているため、具体的な数字を当てはめて考えるとわかりやすいでしょう。仮に\( Y \)(割引率)が5%、\( g \)(変動率)が-0.3%とすると、\( R \)(還元利回り)は5.3%となり、還元利回りが割引率よりも大きくなります。
従って、本肢の内容は正しいです。
ホ:正
賃貸用マンションの鑑定評価において、対象不動産の近くで大規模ショッピングモールを建設中で近い将来開業が予定され、不動産価格が上昇すると見込まれる場合、還元利回りを低下させることがある。
直接還元法で価格を求める場合、「\( P = \frac{a}{R} \)」の式で求めます。\( P \)は価格、\( a \)は純収益、\( R \)は還元利回りです。
対象不動産の不動産価格が上昇すると見込まれる場合、還元利回りは低くなります。なぜなら、価格が高くなるには、分母である還元利回りが小さくなる必要があるからです。
従って、本肢の内容は正しいです。