解答
解説
この問題は、総論第5章第1節「対象不動産の確定」から問われている問題です。
(1):誤
敷地利用権が借地権である1棟の賃貸マンションについて、その状態を所与として借地権のみの鑑定評価を依頼された場合の対象確定条件は、独立鑑定評価となる。
「独立鑑定評価の意義」について述べられた選択肢であり、基準には以下のように記載されています。
基準・留意不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その土地のみを建物等が存しない独立のもの(更地)として鑑定評価の対象とすること【176】
つまり、独立鑑定評価は現況を所与としない鑑定評価となります。
従って、「その状態を所与として鑑定評価を行う場合は独立鑑定評価となる」とする本肢は誤りです。
敷地利用権が借地権である1棟の賃貸マンションについて、その状態を所与として借地権のみの鑑定評価を依頼された場合の対象確定条件は、部分鑑定評価となります。
(2):正
売買の参考のため、診療所(自己使用不動産)の鑑定評価を依頼された。類似の賃貸事例の収集は可能であった一方で、類似の取引事例の収集が困難であった。このような場合でも、収集可能な事例の有無によって対象不動産の類型を確定させるべきではない。
本肢は、「鑑定評価の手法の適用」について述べられた選択肢です。
売買の参考のため、自己使用不動産の鑑定評価を依頼された場合には、自用の建物及びその敷地として鑑定評価を行うこととなります。
「自用の建物及びその敷地の鑑定評価」について基準には、「積算価格、比準価格及び収益価格を関連づけて決定するものとする。【680】」と、記載されています。
対象不動産の類似の取引事例の収集が困難である場合には取引事例比較法の適用が困難となりますが、積算価格と収益価格を関連づけて決定することができます。対象確定条件は依頼内容に応じて設定するものであり、収集可能な事例の有無によって対象不動産の類型を確定させるべきではありません。
従って、本肢の内容は正しいです。
なお、「手法の適用が困難な場合の鑑定評価報告書の記載」について、留意事項には以下のように記載されています。
基準・留意対象不動産の種別及び類型並びに賃料の種類に応じた各論第1章から第3章に規定する鑑定評価の手法の適用ができない場合には、対象不動産の市場の特性に係る分析結果等に照らし、その合理的な理由を記載する【1266】
(3):誤
価格時点において、所有者が異なる隣地を買収して隣地と一体となった後の土地の鑑定評価は、併合鑑定評価であるため、限定価格を求めることになる。
「併合鑑定評価の定義」について述べられた選択肢であり、基準には
基準・留意不動産の併合又は分割を前提として、併合後又は分割後の不動産を単独のものとして鑑定評価の対象とすること【178】
と、記載されています。
つまり、併合鑑定評価では、一体となった後の土地を独立のものとして鑑定評価の対象とするため、増分価値を考慮しない正常価格価格を求めることになります。
従って、「限定価格を求めることになる」とする本肢は誤りです。
(4):誤
不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状態を所与として鑑定評価の対象とするときの不動産の類型は、自用の建物及びその敷地又は貸家及びその敷地のいずれかとなる。
「建物及びその敷地の類型」について述べられた選択肢であり、基準には以下のように記載されています。
基準・留意建物及びその敷地の類型は、その有形的利用及び権利関係の態様に応じて、自用の建物及びその敷地、貸家及びその敷地、借地権付建物、区分所有建物及びその敷地等に分けられる。【68】
借地権付建物、区分所有建物及びその敷地の類型や、基準に挙げられているもの以外の類型も考えられるため、本肢は誤りです。
(5):誤
対象不動産の確定に当たっては、依頼者との十分な意思疎通や登記事項の確認が必要であるが、当該不動産の現実の利用状況の確認までは必要ない。
「対象不動産の確定」について述べられた選択肢であり、基準には以下のように記載されています。
基準・留意対象不動産の確定は、鑑定評価の対象を明確に他の不動産と区別し、特定することであり、それは不動産鑑定士が鑑定評価の依頼目的及び条件に照応する対象不動産と当該不動産の現実の利用状況とを照合して確認するという実践行為を経て最終的に確定されるべきものである。【172】
つまり、対象不動産は、依頼者に確認などを行っただけでは確定せず、現地で対象不動産を確認して初めて、確定されるということです。
対象不動産の内覧は、要件を満たせば省略できますが、対象不動産の現実の利用状況を確認する実地調査は適正な鑑定評価の基礎となるため、いかなる場合であっても省略することはできません。
従って、「現実の利用状況の確認までは必要ない」とする本肢は誤りです。